千両過眼

東京在住の会社員です。読書、舞台、展覧会の感想などを書いています。

「キース・ヴァン・ドンゲン展」

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〇2022年7月16日
「キース・ヴァン・ドンゲン展」(パナソニック汐留美術館)

キース・ヴァン・ドンゲンの44年ぶりの日本での展覧会です。
ドンゲンはアーティゾン美術館や国立西洋美術館の常設展示でよくお目にかかりますが、とくにアーティゾン美術館の「シャンゼリゼ大通り」が好きです。

オランダ・ロッテルダム生まれ。やがてパリに移住し活動を開始します。
ドンゲンはフォーヴの画家と言われますが、形態感覚と色彩感覚が独特。とくに人物を際立たせる色の対比が印象的。
ベルエポック、レザネフォールの時代、パリの自由で洗練された空気が凝縮されているようで見ていて気持ちがいいです。

「ガブリエル・シャネル展」

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〇2022年7月1日
「ガブリエル・シャネル展」(三菱一号館美術館)

ガブリエル・シャネルの32年ぶりの回顧展だそうです。
今からは想像がつきにくいけれど、シンプルな服という概念は、当時斬新で革命的なものだったと。
それまでのファッションは装飾が過多で締め付けるようなものだった。これをシャネルが自由で機能的なものに変えた。
それはあたかも社会の変化と歩調を合わせたようなものだったと。

ここの美術館は来慣れているところだけれど、照明がかなり絞られていて暗い中、廊下を進むとシャネルのスーツやドレスが突然目の前に現れます。
浮かび上がる美しいフォルム。時代を作った作品というものは概念を語るのだということを、改めて思いました。

建物公開2022「アール・デコの貴重書」

〇2022年6月10日
「建物公開2022 アール・デコの貴重書」(東京都庭園美術館)

旧朝香宮邸が建てられた当時の、建築やデザインに関する書籍や資料が展示されています。
なかでも1925年、パリで開催されたアール・デコ博覧会の写真が展示されていました。会場にはパビリオンが建設され、日本館もありました。なんとなく、まだ海外デビューを果たしたばかりの当時の日本人の、世界に対する意識が感じられるようでした。
なんといってもここは建物が魅力なので、たくさん写真が撮れて嬉しかったです。

「燕子花図屏風の茶会」


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○2022年5月5日
「燕子花図屏風の茶会」(根津美術館)

毎年、この時期に根津美術館に行きます。
展覧会は、初代根津嘉一郎氏の昭和12年5月の茶会の取り合わせを再現しています。
待合の片桐石州書状から始まり、懐石、炭手前、濃茶、薄茶と順を追っていきます。
浅酌席というものが別に設けられ、燕子花図屏風、藤花図屏風、吉野龍田屏風のうちの吉野図屏風が並べられたそうです。
今年はすでに藤棚は終わっていましたが、庭園に藤とカキツバタを配したのは、光琳の「燕子花図屏風」と応挙の「藤花図屏風」との競演を意図したものでしょう。
次の番茶席には伝光琳の「業平蒔絵硯箱」、呂敬甫「瓜虫図」など。
二階の展示は、式部輝忠「観瀑図」、因陀羅「布袋将魔訶図」などの画に賛が付けられた「画賛のたのしみ」など。

「人のすがた人の思い」


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〇2022年5月
「人のすがた人の思い」(大倉集古館)

意外に、というと失礼ながら、面白い展覧会でした。
表題を聞いただけでは何?という感じですが、「人の姿を表現した作品を通して宮廷、行事、生業、行楽などさまざまな活動の場で人がどのように表されているかを探る」ものだそうです。
人が出ていればなんでもあり、とも言えますが、コロナ禍で人と人との断絶が言われている昨今、人の関わり=コミュニケーションの重要さを私たちに再確認させてくれる試みでもあります。

英一蝶「雑画帖」や久隅守景「賀茂競馬・宇治茶摘図屏風」などもよいですが、何といっても興味深かったのは狩野探幽「探幽縮図」ですね。
狩野家に鑑定で持ち込まれた古画を模写した覚書で、絵はもちろんすごく上手いのですが、探幽自身のコメントが書かれています。「これは価値はない」とか「本物ではあるが下手」とか、面白いのです。
「都風俗化粧伝」とか恋川春町の「金々先生栄花夢」(複製)なども初めて見ました。

「若冲のひみつ」

◆2022年5月7日
「若冲のひみつ」(PHP新書)
山口桂

オークション会社クリスティーズ・ジャパンの山口桂氏が著者。
とくに若冲作品を中心とした日本美術について、海外での受容や取引について語っています。
ふだん美術館で接することがほとんどである美術品の、金銭を介したやりとりの仕方が窺われて興味深いです。
明治になり、混乱の中で多くの日本美術が海外に流出しました。
現在、海外の日本美術コレクター(多くはないようだが)は偶然の出会いによって日本美術に興味を持つようになった人が多いとか。ライトを通して日本美術と出会ったというジョー・プライス氏もその一人。
若冲の「鳥獣花木図」等を含む有名なプライス夫妻のコレクションは、山口氏を通して2019年に出光美術館に売却されます。
私は出光美術館の何かの発表を見て知りましたが、どちらかというと玄人好みの出光コレクションに、ファンも多く奇想と言われイメージも派手な若冲、しかも「鳥獣花木図」が加わると聞き、衝撃を受けたことを覚えています。(しかし考えてみれば、出光美術館は狩野派や等伯、琳派、仙厓、近世風俗図などの江戸絵画も多く所蔵しているので、不思議はないのかも知れません)
コロナ禍で延期になっていたプライスコレクションの出光美術館でのお披露目も近く行われるようですで楽しみです。

「国宝手鑑 見努世友と古筆の美」

〇2022年5月
「国宝手鑑 見努世友と古筆の美」(出光美術館)

久し振りに開館の出光美術館。他の美術館が続々と通常開館に移行する中、なんと1年半ぶり。
古筆切を集めた手鑑「見努世友」と、様々な古筆の展示です。
「見努世友」は、徒然草13段の「ひとり灯のもとに、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなうなぐさむわざなる」に由来しています。両面貼り一帖から片面貼り二帖に改装されています。
伝小野道風・継色紙「むめのかの」(だったかな?)とか伝紀貫之・高野切「寛平のおほんときの」とか、すらすらと解読できない自分が残念です。

後半は玉澗「山市晴嵐図」や茶道具。奥高麗「秋夜」とか光悦の「赤楽兎文香合」とか珠光青磁とか、派手ではないですが、静かな名品が揃っています。

「マイクロスパイ・アンサンブル」

◆2022年5月
「マイクロスパイ・アンサンブル」(幻冬舎)
伊坂幸太郎

「おうちに帰るまでが任務です」「松嶋君って、エンジン積んでないよね」
印象的なフレーズで物語は始まります。
「重力ピエロ」の書き出しが有名ですが、この作者の言葉のセンスは、のっけから読者の心をつかみます。

この作品は、年に一度、猪苗代湖で開催される音楽&アートイベントで配布される小冊子向けに書き継がれた短編をまとめたもの。
舞台は猪苗代湖。社会人になったばかりの青年と、いじめっ子から逃れてスパイになった少年の話が交互に出てきて、やがて交差していくという話です。

自分では意識しないのに、自分の行動により見知らぬ誰かが助かっていたり、逆に自分が誰かに助けられていたり、そういうことはあるのかも知れない。
その人のことを考えていたら電話がかかってきたとか、たまたま自己紹介したら相手と名前が同じだったとか、そういう偶然が起こると何かいいことがある気がする。
私たちの日常にも時折ある、そんな小さな奇跡を描いていて、心が温かくなります。
冒頭の「エンジン積んでないよね」にしたって、別にエンジン積んでなくてもいいんじゃないか。「どこかの誰かが、幸せでありますように」という願いが皆の共通のものでさえあれば、案外世の中はうまくいくのではないか。
そういうような、著者のメッセージを感じました。

「マスカレード・ゲーム」

◆2022年4月
「マスカレード・ゲーム」(集英社)
東野圭吾

マスカレードシリーズの最新作(4作目)。
全く別の事件と思われていた3件の連続殺人事件に、ある共通点が判明する。それは被害者がいずれも過去に人を死に追いやったというものだった。
被害者の遺族がホテルコルテシアに宿泊することがわかり、新田はまたもやホテルの潜入捜査に向かう。

このシリーズは読んでいてやはり面白いです。舞台となるのがホテルという私たちがなじみ深い場所であることに加え、宿泊客とホテル従業員、警察、いろんな立場の人が出たり入ったりして、常に状況が変化し続けるのが刺激的です。
客の仮面を守るべき立場にあるホテル。客の仮面の裏を暴こうとする警察。両者が事件解決のために協力しつつ対立している、という構図が今回も生きています。
過去のシリーズでの捜査でホテルの立場についてある程度の理解者となった新田の代わりに、今回は梓警部という女性が登場し、山岸尚美らホテル側の人間をぴりぴりとさせます。
事件解決のためには手段を選ばない、この梓のキャラクターがアクセントになっていてよかったと思います。
ここのところの東野作品は、犯罪と贖罪が大きなテーマになっていたと思います。今作でも犯罪を犯した者と遺族の心情の関係がクローズアップされており、作中出てくるHPは作者の問題提起とも思えます。
本作終盤のくだりで、このテーマに作者として一応の答えを出したようでもあると感じられました。

本の帯には「シリーズ総決算」とありますが、今後このシリーズはどうなるのでしょうか。
驚きつつも読みながら予想した通りの展開もあり笑ってしまいましたが、また意表を突く感じで新展開の予感もするので、楽しみに次作を待ちたいと思います。

「大英博物館 北斎」


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〇2022年4月
「大英博物館 北斎ー国内の肉筆画の名品とともにー」(サントリー美術館)

大英博物館のコレクションはとにかく状態のいいものが多くて、コレクターたちに大事にされてきたことが理解できます。
北斎の作品については毎年のようにいろんな切り口でさまざまな展覧会が開かれますが、絵が抜群にうまい人、という以外にいまだに私は北斎の全貌が掴めないでいます。

「百人一首姥が絵解き」という面白い一群がありました。
もともと100枚組で企画された(当たり前ですよね笑)が、不評だったらしく27枚しか完成を見たものはない、というシリーズです。内容は姥が子供に、百人一首を絵で説明してみせる、というものですが、はっきり言って元の歌よりも難解になっているのが多いです。
たとえば「あしびきの」の人麻呂の歌は、網を引く漁師と長々しくたなびく焚火の煙、その先の苫屋で外を眺めている人が描かれています。このように歌意を江戸時代に置き直しているものと、当時の情景をそのまま描いたものもあったりして統一感にも欠けているようです。
こういう企画は北斎の知識人的な一面を表しているような気がしますが、やはり平安時代と北斎の絵のテイストのギャップは常に私たちの頭に違和感を訴え続けてきて、計画が途中で頓挫したのも仕方ないかな、という気がします。
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今回の呼び物の一つは国内の美術館が所蔵する肉筆画が十数点展示されていることです。
「墨堤三美人図」「白拍子図」など。蔦屋重三郎が版元の「画本狂歌 山満多山」には専用の絵入りの袋が展示されていて、当時の売り方も、今の特別描き下ろしケース入り豪華本、みたいなものだったのだろうと想像されました。
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