◆2013年7月3日
「愛に乱暴」(新潮社)
吉田修一
 
久々に吉田修一らしい作品来た!という感じです。
考えてみると、「路」も「太陽は動かない」も「平成猿蟹」も"らしく"なかったんですよね。
なんかこう、鬱屈してるというか、人間の心の不思議をあぶり出すような(笑)吉田作品を読みたいと思っていたので、嬉しいです。
 
主人公は割と裕福な家庭の主婦です。
築何十年にもなる古い家。母屋に義父母、離れに夫婦二人が暮らす二世帯住宅。
結婚して8年、夫婦仲はまあ普通な感じで、姑とは分かり合えない部分がありながらも、それなりに安定した間柄。
ゴミ出しのこととか庭に来る捨て猫のこととか、日常の光景が積み重ねられていきます。各々の努力の上に成り立っている人間関係。この辺の描写はさすが。
しかし途中から雰囲気が一変します。なんと夫に愛人がいることが発覚。どっちつかずの夫に対し、現実感のない態度を取り続ける妻。一見以前と変わらない日常が堆積していく中、ちょっとずつ現実世界と彼女のズレが表面化していきます。
叙述ミステリーっぽい仕掛けもあって、眩惑されました。
終盤、救いの兆しがあるものの明確な起承転結があるわけでもなく、もやもやした読後感が残ります。そういうところも吉田修一らしいと思いました。
 
写真はアガパンサス。「愛の花」の意味です。和名は紫君子蘭(むらさきくんしらん)というそうです。
(2013年-53冊目)☆☆