◆2014年2月24日
「天切り松闇がたり 第五巻 ライムライト」(集英社)
浅田次郎

本当に久々の「天切り松」の新作。なんと9年ぶり。
帝都が震災から復興する大正末から、昭和8年頃が舞台となっています。モボ、モガが行き交い、街にはジャズが流れていた頃の東京。
大正モダンと、江戸の粋が共存していた時代のお話です。

副題にもなっている「ライムライト」のチャップリン初来日は昭和7年。
国を挙げての歓迎ムードのなか、神戸から東京へやってきたチャップリン。帝国ホテルで待ち構えていた目細の安吉一家の「百面相」常次郎が、チャップリンと入れ替わって首相官邸での晩餐会に出席する、という話。
五一五事件のときにチャップリンの暗殺計画があった、とどこかで読んだことがありますが、緊迫した事件の当夜を描いています。
チャップリンの面白さ、犬養首相の大きさ、そして最後のロマンティックな落ち、と歴史をベースにしながら、よく出来た短編。さすがの浅田節。
ひたひたと押し寄せてくる軍国主義の不穏な空気。作中に「国に代わって謝る」というのがたびたび出てきますが、キナ臭い時代に、義理と人情の光がかすかに闇を照らします。

ところで。このシリーズでは老いた天切り松、村田松蔵が昔語りをするという体裁をとっていますが、その時制が段々現代に近付いてきた気が…。今巻ではコーヒーまで飲んでるし。
会話に出てくる、映画の市販DVDなんかが一般的になるのは90年代末だと思うので、すると松蔵って、一体幾つになるんだろう?
大正初め頃の生まれとして90歳位?も少し若そうに見えるけど…。もしかして、松蔵は旧弊の時代から昔語りをするためにやって来た亡霊のような存在だったりして?と、ちょっと浅田チックなことを考えてしまいました。

帝国ホテルを通ったら、旧本館(ライト館)開業90年記念で、昔の写真などのパネル展示をしてました。 上の画像は、チャップリン来日時の写真。ホテルの和牛ステーキが気に入り、ここでの全食事に和牛ステーキを注文したとありました。
ちなみに花長では海老の天麩羅を36本食べたそうです。気に入ったものにはトコトン入れ込んじゃう人だったんでしょうね。
(2014年-16冊目)☆☆