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◆2017年3月6日
「坊っちゃんのそれから」(河出書房新社)
芳川泰久

文字通り「坊っちゃん」のその後を描いた作品。と思いきや、「坊っちゃん」の設定を借りた別作品と考えた方がよさそうです。
文体に漱石を意識したような部分があるものの、内容は漱石ぽくありません。
四国の学校を辞め、坊っちゃん(本作では多田という名前)と山嵐(堀田)が東京に出て来るところから物語は始まります。

(以下ネタバレあります。ご注意ください)
不動産屋から印刷工、街鉄の技手(運転士)を転々とし、やがて刑事の職を得る多田。
女工のストに関わったとして富岡製糸場を放逐され、上京後、仕立屋銀次のもとでスリをしながら自由民権運動に関わる堀田。
日比谷焼き打ち事件で、見物に来ていた堀田の目の前で多田の電車が燃やされたりと、二人の人生はしばしば交錯します。
見方を変えれば、この二人は作品が描くばらばらの点景をつなぐ蝶番のような存在に過ぎないのかも。
同時代の人間を巻き込んで、巨大なうねりのように変転していく明治後半から大正にかけての時代のエネルギーこそ、この話の主役なのではないかと思います。

写真はカンヒザクラ、ほぼ満開です。
(2017年9冊目)