〇2017年5月
「絵巻マニア列伝」2回目、3回目(サントリー美術館)

GWの間に一度、その後に一度、「絵巻マニア列伝」を観ました。

GWにはとても混雑していて、そのためかどうにも消化不良感が残りました。
展覧会の趣旨は「絵巻マニアたちの享受の仕方を理解する」というものだったと思うのですが、そもそもが「絵巻マニア」といわれてもピンと来ないんですよね。
知識と視覚的納得感のバランスも取りにくい。
文献資料の引用や口語訳は労作だと思うのですが、だんだん読むのが面倒になってくる。

というわけで、次の時にはマニアたちや文献のことは忘れて、絵巻そのものにのみ注目することにしました。
そうすると、絵巻の美しさや豪華さが目前に迫る感じがします。
絵巻物の用途として、宮廷での回し読みや、寺社の民衆教化みたいなのを想像していたのですが、確かにそういう面もあるとはいえ、今回ここに並んでいるようなものは、明らかに美術品として作られている気がします。
当時一流の絵師が絵を手掛け、詞書や奥書はこれも一流の能書家に。もちろん料紙や絵具は最高のものを使用。そうして出来た絵巻が皇室や寺社に奉納され、手にすることが出来るのは超の付く貴人など。
だからこそ美術的完成度も高いし、大切にされるため傷みも少ない。

久々に見た「玄奘三蔵絵」が素晴らしい筆運びといい、往時そのままと思える彩色といい、目を引きました。鎌倉時代の作にも関わらず全く古びておらず、お隣の江戸時代の模写「彦火々出見尊絵巻」と並んでも遜色がない。
興福寺大乗院旧蔵で、新門主就任の時のみ閲覧が許されたのだそうです。やはり。
他にも時を超えて美しい「法然上人絵伝」や「當麻寺縁起」、琵琶湖から薬師如来が出現する霊験譚「桑実寺縁起」。神秘的な「春日権現験記絵」。
いろんな絵巻に描かれた山々の緑青が清々しく、これこれ、大和絵の美しさだよなあと思いました。
内容的に興味深いのは「地蔵堂草紙絵巻」でしょうか。
修行中、色欲に迷った若い僧が龍宮に連れられていき、現世に帰ると体が蛇に。やがて人間に戻れるものの、いつの間にか200年の時が経っていた…という話。
浦島伝説との共通点。また僧→恋→水→蛇という連想から、道成寺も思い浮かびます。
「石山寺縁起」の一場面では、亭子の帝(宇多天皇)の石山寺行幸に際し、菊の花の設えられた打出の浜の行在所で待っている大伴黒主が描いてあります。
この話は「大和物語」に見え、賦役を免れたため畏れ多さに身を隠してしまった国司に代わり、黒主を行在所に置いておいたところ、黒主が帝に
「ささら波まもなく岸を洗ふめりなぎさ清くは君とまれとか」
の歌を奉り、帝が足を留められたのだそうです。