◆2017年5月31日 
「風のかたみ」(朝日新聞出版)
葉室麟

「墨龍譜」が著者50作目の小説ということだったので、本作は51作目になるのでしょうか。
葉室先生、本当に多作!書きたいものがたくさんあるんでしょうね。
「風のかたみ」は武家物ではありますが、これまでとは、やや毛色が違った小説でした。

豊後の小藩の女医、桑山伊都子は、上意討ちとなった重臣・佐野家の女たちを「生かす」ために、彼らが住む白鷺屋敷に行くことを命ぜられます。
当主の妻、長男の妻と娘、次男の妻、そして三人の女中。彼らの間に流れる奇妙な空気。
そして、屋敷に烏天狗の面を被った闖入者が…。
(以下、ややネタバレあります。未読の方ご注意下さい)

外界と遮断された屋敷の中で、次々に起こる不可思議な出来事。何を考えているのか分からない女たち。あたかも心理ミステリーのように話は進みます。
とくに次男の妻・初の、男を翻弄する魔性の女というのは、これまでの葉室作品にないキャラクターで、どうなるのだろうと期待したのですが…。
おぼろげながら全体の構図が見えてきてからは、やや興味が削がれました。
屋敷の女たちの行動原理に今一つ納得できなかったし、初の人格も、私には最後まで掴みきれませんでした。
全体としては手堅くまとめられているとは思いますが、着想の面白さが十分に生かされていない気がしました。始め面白かっただけに残念に思いました。
(2017年21冊目)