●2017年10月18日
ミュージカル「レディ・ベス」(帝国劇場) 2017年1回目
出演:花總まり 加藤和樹 未来優希 古川雄大 和音美桜 吉野圭吾 石川禅 涼風真世 山口祐一郎

帝劇で今季初めて「レディ・ベス」を観ました。
エリザベス1世の不遇だった少女時代から、英国女王として即位するまでの話です。
そもそも背景が複雑。
先王ヘンリー8世は、愛人アン・ブーリンと再婚するため、カトリックで禁じられている離婚を強行。このためローマ教皇に破門されたヘンリーは、独自に英国国教会を設立。
彼の死後、王位に就いた前妻の娘メアリ・チューダーは再度カトリックを国教に定め、プロテスタント弾圧を始めます。
苦しむ民衆は、新しい時代への希望を不遇の王女ベスに託します。

(2014年版感想①)
(2014年版感想②)

この「レディ・ベス」、面白くないわけではないのですが、依然自分の中でしっくりきません。通算3度目の観劇でしたが、深まらないというか心に響いてこないんです。
一因は、ベスの通過儀礼的恋の相手であるロビンの設定が、余りに安易に感じられるからじゃないかと思います。
吟遊詩人という妙な設定(今回はアーチストなんて言ってましたが)、余りにも階層の違う人間が出会って恋に落ちてしまう不自然さ(アントワネットとアンドレが恋するようなもん)。ピーターパンのような恰好(民衆の中でも浮き気味)。
まあそれはいいとしても、一国の王女を愛するということはどういうことなのか、ロビン側の覚悟や葛藤が描かれていないので、薄っぺらく見えてしまう。
せっかく山崎・加藤という二人を揃えたのだから、この辺りは腑に落ちるようにして欲しかったです。

もう一つ気になるのは、ベスの、父王ヘンリーと母アン・ブーリンへの感情の変遷です。
初め自らの不遇の原因をアン・ブーリンに求めていたベスが、ロンドン塔の経験を経て、母と心理的和解を果たします。
一方で父ヘンリー王に対しては終始、尊敬の念を抱き続けているように見えるベス。「強い王」を体現しつつも宗教的・政治的混乱を招き、母アン・ブーリンを処刑したのも他ならぬヘンリー王なのに。
本来は、彼女自身の成長に伴い、父ヘンリー王を超えていく決意が描かれて欲しいところですが、この辺が整理されていないところも、今一つ乗り切れない原因のような気がします。

他方で、キャラクターもの的な面白さは際立っています。
ベス役・花總まりさんの気品やドレス姿の美しさ。この人のプリンセス姿だけでも帝劇に通う価値は十分!
男装して男言葉で「おう、トムだ!」。お約束とはいえ可愛い。最近こういうの見たと思ったら、宝塚の「All for One」で似たシーンがありましたね。
一幕ラストの「秘めた思い」は、泣いていたと思ったベスが昂然と顔を上げて、自分の生き方を歌い上げるところに感動します。
古川雄大のフェリペ。この人の色気は素晴らしい。「クールヘッド」のキュー持ち姿といい王子の姿といい、似合っててわくわくします。なんだかんだで、いつもベスを助けてくれるし。
ルナール役の吉野圭吾、ガーディナー役の石川禅、メアリ役の未来優希、みな達者なので見どころがたくさん。
そして作品全体の重しとなっている涼風真世、山口祐一郎のお二人。
涼風さんのキャット夫人の「ベスさま」が久し振りに聞けて嬉しいです。そして、「大人になるまでに」の声を張るところが本当に気持ちいい。
山口さんの天文学者アスカムは劇中でベスの導き手ですが、運命論的に物語全体をもナビしていく役でもあります。山口さんの底知れない大きさが、この役にぴったり。
ラストの場面でアスカムから促され、ベスは愛や自由よりも義務を選択する決意を固めます。ここの花總ベスがとても美しい。同じ場面、じっとベスを見上げている和樹ロビンの横顔も良かったです。