◆2017年10月17日
「マスカレード・ナイト」(集英社)
東野圭吾

警視庁の新田刑事と、ホテル・コンシェルジュ山岸尚美が活躍するシリーズの3作目。
大晦日にホテル・コルテシアで開催されるカウントダウン・パーティに殺人犯が現れるという匿名通報。新田はフロントクラークとしてまたもや潜入捜査をすることに。
パーティの参加者は全員、仮面をつけて仮装するため、素顔が分からない。決定的な手がかりが掴めぬまま、刻一刻と時間が過ぎていく…。

「ホテル利用者は皆、『お客様』という仮面を被っている」
不特定多数が出入りする匿名の空間。犯人像も通報者像も分からぬまま、仮面パーティというさらなる匿名性まで加わって…。
客のプライバシーを守らなくてはならないホテル側と、これを暴くのが仕事の警察。ぎりぎりのところでの駆け引きがこの作品の妙味です。
今回、尚美に加えて氏原というベテランホテルマンが登場して新田と対立します。分かりやすい構図になりました。
とりあえず怪しそうな者を監視対象として絞り込もうとする警察、でもこの「怪しい」というのがくせ者で、コンシェルジュに怪しい、風変わりな要求をしてくる者があとを絶たない。
いくらなんでも、これはリアリティないでしょと思いながらも、ホテルの客というものは案外こういうものだったりして、ホテルに泊まるときには、あんまりわがまま言わないようにしよう、と思いました。

ところで、この作品はミュージカルの「オペラ座の怪人」を彷彿とさせます。そういえば著者は四季の会報誌にもしばしば寄稿しています。
その「オペラ座」の2幕、「マスカレード」は、団員スタッフ達の(内輪での)仮面舞踏会にファントムが紛れこむ、という場面。
オペラ座を陰で支配するファントム(しかも、この時点ですでに一人殺している)をびくびく怖れながらも、皆で踊って楽しんじゃう訳です。
ふつう、この状況で仮面舞踏会やらないよね、恒例行事だとしても今年はパスするとか、せめて仮面止めとこうよとか言うよね、と思ってしまうのですが、そうはならない。本作の状況はなんかそれに似てて。
物語的には、仮面の匿名性を条件に何かしら超自然的なものがこの世に降臨するとなれば、その祝祭は実行されなくてはならない、ということなんでしょう。
本作の場合、その降臨者は正体不明の犯人なわけですが、この辺り、読者の無意識的感性に訴え掛けてくるものだと思います。

作品としてはまずまず面白く読めた一方で、謎解き部分がいつもの著者に似ず美しくない、と思ったのは私だけでしょうか。結局、プライバシーの厚い壁に阻まれてしまうホテルという空間での捜査を描くミステリーとしては、ある程度限界を感じさせる内容でもありました。
(2017年39冊目)☆