●2017年1月6日
二代目松本白鸚・十代目松本幸四郎・八代目市川染五郎襲名披露
「壽初春大歌舞伎」昼の部
 箱根霊験誓仇討/七福神/菅原伝授手習鑑『車引』『寺子屋』

久々に歌舞伎座に行きました。高麗屋三代襲名披露で賑わっています。
ちょうど歌舞伎を見始めた学生の頃に、今回白鸚を襲名した幸四郎の講演を聴いたことがあって、以来何となく応援している自分がいます。
今回三代同時襲名ということで、芸と同時に名前が継承されていくところを見られて、嬉しいです。

一幕目は「箱根霊験誓仇討」。
新歌舞伎座の開場以来、初上演ということですが、そりゃそうだよなあ。だって突っ込みどころ満載だもの。
霊験譚で貞女譚で仇討ちもの。
仇である滝口上野を探して箱根にやって来た勝五郎と女房初花。だが、逆に見つかり殺されそうになる。絶体絶命。(余りに簡単にやられちゃうので計画性のなさにびっくり…)
初花に横恋慕した上野は夫と母を助けて欲しくば俺と来いみたいなことを言い、悩んだあげくついて行く初花。すると、なぜか念仏を唱え始める夫と母親。(まだ死んでないし!)
すると、初花が突然戻ってくる。観客にはああ、と分かるが勝五郎に分からないのは仕方ない。ところが、初花が上野と差し違えなかったことをなじり始める勝五郎。(何もしてないお前が言うな!)
この初花は実は上野に殺された初花の魂魄で、夫の病気快癒を祈るため、最後は滝壺に身を躍らせるのでした。
女房のおかげで足が治った途端、嬉しくて満面笑みの勝五郎にドン引き。せめて悲しむとか、女房の捨て身の行為に感謝するとかが普通だよねえ。でも歌舞伎って大なり小なりこういうとこがあって、現代の価値観との違いに戸惑うことある。
脳内でいろいろ突っ込みながらも、涙してしまう自分も不思議。

『七福神』
お正月らしい七福神の舞。私はもちろん踊りの細かい所作なんかは分からないけれど、なんかすごく良かった。自分もお酒を飲んで、仙境に遊んでる心地がしましたよ。
彌十郎さんの寿老人の表情が素敵だった。
回文の和歌「長き夜の遠の眠りの皆目覚め波乗り船の音の良きかな」が歌い込まれていました。

『車引』
主君、菅丞相の仇である藤原時平をつけ狙い、牛車の前に立ちはだかる梅王丸、桜丸とそれを止めようとする松王丸。実は三人は兄弟で、後日の決着を誓う、という話。
染五郎改め幸四郎が松王丸、口跡良く若々しい松王丸。以前は線が細く感じたものだったけど、芯みたいなもんが加わり、本当に立派。お父さんの良いところも受け継いでってほしい。
勘九郎が梅王丸、七之助が桜丸。これも上々で、兄弟三人並んだところが華やかでした。
そうそう、時平役の彌十郎が眼からビーム出しそうでめっちゃ怖かった。

『寺子屋』
幸四郎改め白鸚の当たり役。ここでこれを持ってくるのは納得。
寺子屋の主・武部源蔵は、菅丞相の嫡子である菅秀才を匿っていることがバレて、その首を差し出すよう命じられる。
そこで、この日初めて寺子屋に来た少年の首を、首実検に来た松王丸に差し出すのだが実は…。親子の情愛と、主君への義理の狭間で起こる悲劇。
源蔵が梅玉、その妻戸浪が雀右衛門、松王丸妻千代が魁春、ほか左團次、藤十郎、東蔵。 
菅秀才を守るために赤の他人の子を殺そうとする源蔵。露見しないよう母親までも手にかけようとするところ、これがスルーなのも歌舞伎ならでは。
そういえば、子供の与太郎役で猿之助が元気に出演してました。「めでたい襲名披露に出るために頑張ってリハビリしたよ」とか何とか。劇場が沸きました。
白鸚の松王丸はさすが当たり役だけあって重厚でした。梅玉の源蔵との間の緊張感もすごく伝わってきました。
それまでずっと目を瞑っていたような松王丸が、首実検の時にかっと目を見開いたところに無言の慟哭が感じられました。その後も春藤玄蕃の目がある中で無表情を通しながらも、我が子を失った「しおしお感」がそこはかとなく伝わってきて、良かったです。