◆2018年5月26日
「東十条の女」(幻戯書房)
小谷野敦

最初の短編二つが面白かったです。
「潤一郎の片思い」。ひそかに漱石に憧れていた谷崎が、ついつい「門」を批判したりしているうち、漱石が帰らぬ人になってしまった、という話。
「夏目先生に認められる」のが、谷崎の目標の一つだったのに!
一高ですれ違っても声を掛けられず、自信作の「刺青」についても何もコメントしてもらえず、文壇の集まりで行き合うこともなく。
何か反応してくれるんじゃないかと期待して「門を評す」を書いちゃったりして、素直になれない谷崎の気持ちが伝わってきます。
「細雨」。図書館勤めの若い女性が仕事を通じて感じる雑感あれこれ。中の人の側に立ってみれば、ああなるほどということばかり。
例えば、雨の日に少し濡れてしまった本が返ってきたら?とか。
そして図書館も、未知の体験、人との出会いの場所には違いなく、物語の生まれる場所でもあったのでした。
(2018年11冊目)