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○2019年5月
特別展「美を紡ぐ 日本美術の名品」(東京国立博物館)

東京国立博物館の特別展に行きました。
開館前に着いたのですが、5月も後半になると日差しが強くて、門内に入るのにも館内に入るのにも日向で並ぶのは若干辛く感じられました。
ただ平成館の東寺展は、それこそ表慶館の前まで列が出来ていたので、これからの季節、混み合う美術展はキツいなと思いました。

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今回の私の一番の目的は狩野永徳の「檜図屏風」。
以前見た永徳の「花鳥図」「琴棋書画図」「洛中洛外図」などに比べて、図版で見る限り著しくバランスが悪い絵に思えます。永徳晩年の超多忙期に描かれているとはいえ、花鳥図などに見られる典雅さが全く見られず、どちらかというと鬱屈して荒っぽい印象をうけるので、一度実物を見てみたいと思ったのでした。

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「檜図」の前、入って最初に展示されているのは同じ永徳の「唐獅子図屏風」。
この作品は素晴らしいです。絵の前に立つと言葉にならない感動を覚えます。元信以降の狩野派の絵というと、多かれ少なかれ作り物めいた、職人の手業感があるものですが、「唐獅子図」は様式に嵌まらない大きさ、天衣無縫さ、自由さがあります。そして力強さ!これぞ永徳という感じです。
永徳作の右隻に対し、左隻は江戸前期の常信作で、右隻と比べると様式的で、勢いが削がれます。天才永徳と並ぶとこれは仕方ないことですが。

この絵を見た後「檜図」を見ましたが、出来的な落差をそれほど感じなかったのが自分でも意外でした。
まず「唐獅子図」に比べてサイズが小さく、コンパクトにまとまって収まりがいいこと。遠景中景近景の配置が全く平面的、装飾的でブレがないこと。小さな葉、くねった枝、巨大な幹の対比、巨木を画面やや右側に寄せた構図の安定感。そしてこれは経年的なものかも知れませんが、緑と茶色、金箔の色の収まり良さなどがその理由かと思われました。
いずれにせよ思っていたほどの窮屈さ、奇怪さは感じず、ぎりぎりのところで安定を保っているのは、むしろすごいかも、と思いました。
その隣には伝永徳作「四季草花図」がありました。一見、永徳の息子光信作かと思える優美さ。しかし生き生きと見えるところは、永徳作といわれればなるほどと思います。「檜図」と「四季草花図」はもとは八条宮邸襖絵として描かれたようですが、どれぐらい永徳自身の手が入っているのか興味深いところです。

このほかの展示作品でいくつか印象に残った作品がありました。
小野道風の屏風土代。醍醐天皇の内裏の屏風に、道風が大江朝綱の詩を書くことになり、その下書き。ほかにも平安時代の美しい書蹟がたくさんあって、読めるとどんなに楽しいだろうと思いました。
室町期の浜松図屏風。風韻の感じられる美しい大和絵です。
納涼図屏風。夕方の湿潤感、むしむしとした空気にわずかの心地いい風。師・探幽譲りの余白が雄弁で、私の好きな絵。
池大雅「前後赤壁図屏風」など初めて見た作品も素晴らしく、いい展覧会でした。
このあと総合文化展も見て回りました。輞隠(もういん、元信の弟之信とする説が有力)「花鳥図屏風」、岡本秋暉「四季花鳥図屏風」、等伯「瀟湘八景図屏風」、探幽「波濤群燕図」などが見られてよかったです。