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●宝塚月組公演
グランステージ「夢現無双」
レビュー・エキゾチカ「クルンテープ天使の都」(東京宝塚劇場)
出演:珠城りょう 美園さくら 美弥るりか 海乃美月 暁千星 風間柚乃 きよら羽龍

宝塚月組公演を観ました。
今公演は、美弥るりかの退団公演になります。
(美弥るりかさんに関しては後述)
「夢現無双」って何の話やら知らないまま見に行ったら、なんと吉川英治「宮本武蔵」が原作で、初っ端から有名な場面のオンパレードでした。
沢庵に木から吊るされる場面(微妙に吊るされてはなかったけど)、吉岡一門との決闘、お通との心の交流、そして恐ろしいお杉ばば。
珠城りょうがイメージに合ってて、不器用で無骨な武蔵をうまく演じていたと思います。芯のブレない立ち回りも見事です。沢庵から諭される場面を始め、天下無双の武芸者を目指しながら、原作の肝である人間的な成長もきちんと描かれていたのが良かったです。
自らの個性を前面に出して役を自分に引きつけてしまうトップスターが多いなか、珠城りょうの、自分を役に合わせて変化させていくところが好きです。トート閣下も普通のサラリーマンも最強の剣豪も、彼女はすっとその役になりきって、きちんと存在を感じさせてくれる。とくに今回のような原作ものだと、それを強く感じます。

武蔵の超えるべき敵役、佐々木小次郎を美弥るりかが演じました。最強の剣豪の役ですが、クールなのに人間味も感じさせ、武蔵には、別の道を行くライバルとしてのリスペクトを抱いているのがちゃんと伝わりました。
巌流島での決闘はもう少し丁寧に描いて欲しかった気はしますが…。
月組は珠城りょうと美弥るりかが全く異なる個性なので、それぞれの存在が互いを引き立て合っていることを改めて感じました。
風間柚乃の又八役が好演でした。武蔵と対照的に人間の弱さを体現する役で難役だと思いますが、珠城と互角に渡り合ってる場面もあって、良かったと思います。

ショーは藤井大介作「クルンテープ天使の都」。
タイの首都バンコクはクルンテープから始まる長い名前が正式名称らしくて(クルンテープ・マハーナコーン何とかかんとか)、この最初の部分がショーのタイトルになっています。
藤井作品にしてはおとなし目の内容でしょうか。その中で、珠城りょうと美弥るりかの一連托生のダンス、それから美弥るりかがセリから再び現れて男役群舞に入るところ、印象に残りました。

今公演で退団の美弥るりかさん。
素晴らしい存在感で、これまで月組を引っ張ってくれました。
「カンパニー」の高野のようにクールで格好いい役だけでなく、「グランドホテル」のオットー、「エリザベート」のフランツ、「BADDY」のスイートハートなど、気弱な役から気品と愛情深さを感じされる役、ユニセックスな役まで幅広く演じられる役者でしたね。どんな役でも観客に強烈な印象を植え付ける彼女の個性は、宝塚の中でも唯一無二といっていいと思います。
彼女のいろんな役を見てきて、中でも私が一番好きなのは「1789」のアルトワ伯です。王朝終焉期の退廃美まで漂わせたこの役の存在感は素晴らしかったです。
カフェブレイクでアルトワについて振られたとき、当時のトップスター龍真咲から「そのままだと言われました」と笑っていたのも思い出されます。一方で、彼女の周囲への優しさを感じる機会も多いことでした。
「1789」は今後も宝塚で上演されると思いますが、彼女以上に合う人は出ないのではないでしょうか。
彼女の退団は本当に寂しくて残念なのですが、月組は男役・美弥るりかの残したものを引き継いで、これからも皆で成長していってほしいです。