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●2019年8月16日
ミュージカル「エリザベート」2019年5回目(帝国劇場)
出演:愛希れいか 古川雄大 田代万里生 木村達成 未来優希 剣幸 成河 植原卓也 原慎一郎 松井工 秋園美緒 真瀬はるか

帝劇で「エリザベート」観劇。
プリンシパルキャストで前回観劇時と変わったのはトートとゾフィーだけ。なのに受ける印象がずいぶん違いました。
この日の公演は、「ハプスブルク家の物語」という感じが強くしました。いつもはシシィの物語の背景としか思っていなかったのですが…。
シシィ役の愛希れいかは宝塚時代と同じく、演技、歌、ダンスどれをとっても無理がありません。とくに冒頭のくだりは本当に少女に見えるから不思議です。彼女は元男役だったぐらいだから長身の方だと思いますが、そういうのは芸の前では関係ないんだな、と思いました。
中でも彼女の凄さはダンスだと思います。「愛と死の輪舞」と、結婚式から「最後のダンス」へ移る場面は真骨頂。彼女の動きによって、シシィがいる場所が現世ではなくトートが君臨するあっち側の非現実だということがわかるのです。なかなか言葉では言い表せませんが、いくら逃れようとしてもトートによって引き戻され、踊らされるというような。このようなダンスを見たのは初めてです。
もう一つ、とても良かったのが「夜のボート」のくだりです。
前回観劇時は、シシィの年の重ね方に物足りなさを感じましたが、今回は老いや諦念が伝わってきました。
これにはもしかしたらと思う要因がもう一つあって、田代万里生演じる皇帝フランツが、こちらは芝居が進むに従って、身体は老いていくのに思いの強さは増していく、ということを感じさせる素晴らしい演技をしていたことと関係があるかも知れません。
二人の演技が「夜のボート」の場面でぴたりとシンクロして、「近付くけれどもすれ違うだけ」の歌詞を体現しているのがすごいと思いました。

この日、メインキャストで初見だったのは皇太后ゾフィー役の剣幸さん。これでメインキャストコンプリートになりました。
剣ゾフィーはとても気品があって、彼女の立場としてはシシィへの当たりもさもありなん、と納得できました。
涼風ゾフィーが嫁姑関係に、香寿ゾフィーが義務に強く着目しているとすれば、剣ゾフィーは皇太后の立場、皇帝の立場といった、オーストリア皇室としてのあり方にこだわっているように見えました。
このようなキャストの演技の深まり、その組合せが、この日の公演を「ハプスブルク家の物語」と思わせた要因だったのかもしれません。

この日のトート役は古川雄大。非人間的で美しいトートです。これまでの他のトート役のように前面に出て来て支配する、というトートではなく、表にはあまり出てこないけれども、全編で存在感を感じるトートでした。劇中でのあり方は、歴史を統べるもの、運命そのものというようにも見えました。
この日の公演は、いい意味でさらさらと流れていくような調和があって、すごく泣ける、というのではありませんが、ヨーロッパ史の重みが深く心に落ちるというか、納得感を感じる公演でした。
今季自分のラスト「エリザベート」観劇に、とてもいいものを見せてもらいました。