◆2021年8月
「最後の秘境 東京藝大ー天才たちのカオスな日常ー」
二宮敦人

書店の夏の文庫フェアで「東京藝大 仏さま研究室」の隣にあった本書を手に取りました。
出版社別に分けてあるのに、わざわざ隣り合わせに置いてあったのです。小説とエッセイの違いはあれど、両方買えば?と勧められているようです(笑)

以前、一度だけ藝大の構内に入ったことがありました。
なんか木が茂っていて森のようです。何かに登って、黙々と巨大なパネル製作に取り組んでいる人がいました。
本書で初めて知りましたが、こちらは「美校」(美術学部)。向かい側が「音校」(音楽学部)。
何でも自前で作ってしまう美校の人。大切な商売道具である手を痛めないため重いものを持たない、洗い物もしないという音校の人。まったく違う人種のような彼らが、道を挟んで学んでいるわけです。

たとえば、音校で口笛で合格した人が紹介されています。一日何時間も口笛を練習し、いつかオーケストラに口笛を導入したいと考えて様々な奏法を練習しているとか。
一流のピアニストやヴァイオリニスト、声楽家みたいな人を養成するだけでなく、意外と研究テーマが自由であることに驚かされました。
多くの大学や教育機関が、ある程度「型」にはまった(つまりは、その道で生きていくための実学習得のための)人材を養成しようとするのに対し、藝大は必ずしもジャンルにとらわれない、個性的な芸術家の養成をも目的としているようです。
そのあたりの懐の深さが面白いと思いました。