千両過眼

東京在住の会社員です。読書、舞台、展覧会の感想などを書いています。

2012年02月

「ビブリア古書堂の事件手帖」

2012228202230639.jpg◆2012年2月29日
「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜」(メディアワークス文庫)
三上 延

北鎌倉にある古書肆・ビブリア古書堂の店主・栞子と、主人公・五浦の日常を描くシリーズの第1作。
私は先に2作目のほうを読んでしまったので、今回やっと人間関係が把握できました(笑)
先頃、本屋大賞にもノミネートされ、人気の作品ですね。

発端となる一話目。
岩波の「漱石全集・新書版」は、私も学生時代、古書店や友人の下宿などで何度となく手に取っていて、馴染み深い本です。
五浦の祖母の遺品であったこの全集の「それから」の表紙の見返しに、何者かの書き付けが残されており、その謎を栞子が鋭い推理で読み解いていく、という内容。
幾人かの人手を経てきた古書は、時に持ち主や関わった人々の過去をも物語る、と栞子は言います。とすれば、栞子はさしずめ、本に隠された言葉を読み取って、主人公(と読者)に伝えるシャーマン的存在というところか。

他に取り上げられている本は、
・小山清「落穂拾ひ・聖アンデルセン」(新潮文庫)
・ヴィノグラードフ・クジミン「論理学入門」(青木文庫)
・太宰治「晩年」(砂子屋書房)
の三冊。

本に関する蘊蓄は楽しいのですが、本筋のストーリーは、ときに埋もれていた真実や隠された人間模様を掘り起こし、なかなかハードな展開をみせます。
基本的には"日常の謎”&”安楽椅子探偵”(何せ探偵役の栞子が入院している)ものなんですが、古書の話だけだとちょっと型に嵌ってしまいそうなところ、最後の話は意外性がありました。
今春第3巻が出るとのこと、そちらも楽しみです。(2012年-20冊目)

「お辨当箱博物館」/「象彦漆美術館」

DSC_0536.JPG201222718352366.jpg◇2012年2月24日
「半兵衛麩・お辨當箱博物館」
京都・五条大橋たもとにある京麩とゆばの店・半兵衛麩に行きました。
ここでは、待ち時間に併設の「お辨當箱博物館」を見学することができます。
お店の創業は元禄期。江戸時代以降の弁当箱が数多く展示されていて、当時の人達の暮しぶりがうかがえる資料となっています。
蒔絵や螺鈿の立派なもの。公家や将軍家から下賜された紋入りもの、舟形や茶釜、碁盤形(碁盤の上面がパカッと開くらしい)などの“変わり弁当箱”も。
花見、納涼、蛍狩など四季折々の都の景色が描かれた屏風とともに並べてあり、行楽気分が味わえます。
そのあと、ほとんど全部の料理が麩とゆばという「虫養い」を食べました。おなかの虫を抑える軽い食事という意味だそうな。
季節柄、小間一面に代々の雛人形も飾られており、歴史を感じました。

「象彦漆美術館・西村家の雛人形と雛道具展」
こちらは平安神宮近くにある漆器の象彦本店二階に昨年開館。ちょうど当主・西村家に代々伝わる雛人形と雛道具が展示されていました。
桃山時代や江戸時代から伝わる雛人形は歴史を感じさせます。現代と比べてみると、顔付き、着物なども随分印象が違っているんだなあと思いました。
雛道具は、指先ほどの大きさの嫁入り道具、家具や茶道具等が膨大な数、並べられています。一つ一つに細かい蒔絵や染付け、ギヤマンには緻密なカッティングが施してあり、職人達苦心の作なのでしょう。
ミニチュア好きにはたまらないコレクションなのではないかと思います。

泉屋博古館「神秘のデザイン−中国青銅芸術の粋−」

201222220534365.jpg◇2012年2月21日
「分館開館10周年 神秘のデザイン−中国青銅芸術の粋−」(東京・泉屋博古館)

中国の青銅器を集めた美術展です。
商・周時代から清朝時代まで幅広く、その変遷を見ることが出来ます。
私の中では、青銅器はせいぜい漢代位までのイメージですが、明や清の頃も作られていたようです。もっとも後世のものは、商や周の頃のそれとは全く用途や創作意識が違うように思われます。それにしても紀元前十数世紀のこういうものが残っているなんて、さすが中国ですね。

青銅器の多くを占める文様は「饕餮(とうてつ)文」と呼ばれる、獣面の文様です。小野不由美の小説「十二国記」に出てくるあの妖獣ですね。正面から見た顔は、獅子舞にも少し似ています。
ほかに、龍文様の原型や、鳳凰文、鳥形文、麒麟文など様々な動物のモチーフがありました。たぶんそれぞれに何か意味があるんだろうなあ、これ。
ところで、同じ架空の動物でも龍や麒麟、鳳凰と違い、饕餮が現代でメジャーでなくなってしまったのは何故なのでしょう。何か理由があるのでしょうか。
青銅器の用途としては、やはり商や周の時代は、酒や穀物を神に捧げる、というのが多いようです。祭祀具としての性格が強いのですね。日本の銅鐸に似た“鐘”もあります。
のんびりと見ていたら「商の紂王が誰々に宝貝を与えた」という金文の入った、商後期のものがありました。こ、これって「封神演義」(藤崎竜の漫画)じゃん!!と興奮しました。「宝貝(パオペエ)」とは「宝物」の意味なのでしょうかね。よもや仙人が作った武器ではないでしょう(笑)。久々に「封神演義」が読みたくなりました。
帰りにミニチュアの「鴟キョウ尊」を購入(写真左下)。腹に饕餮、翼に龍文の彫られた、紀元前11世紀のみみずく形の容器を象っています。
大変面白く鑑賞しました。

「人魚はア・カペラで歌ふ」

201222283333441.jpg◆2012年2月22日
「人魚はア・カペラで歌ふ」(文藝春秋)
丸谷才一

当代一流の知識人たる筆者ですが、雑学においてもその博識ぶりは一流です。
今回も、ハヤカワ・ポケミス表紙デザインの変遷や「小股の切れ上がつた」の本当の意味、谷崎潤一郎の“夫人譲渡事件”の真相等々、大変面白かったです。
とりわけ「新・維新の三傑」の章。「竜馬が行く」のファンであった、当時15歳の少女への司馬遼太郎の返信が転載されています。
これが情に溢れていて胸を打ちます。将来に世界史の道を勧め、そのために英語と漢文の必要を説き、そればかりか、今は入試のために数学を勉強しろとか実に細かいアドバイスまであって、これを受け取った少女が、どんなにかその後の人生において励まされただろうと想像されます。大作家の読者を思いやり、大切にする一面が窺えます。
余談ですが、私の家族は以前、宮城谷昌光氏に手紙を書いて返事を貰ったことがあるそうです。当時すでに人気作家だったにも関わらず、感想の礼が葉書に丁寧に書いてあり、とても感激したそうです。
それにしても、丸谷氏の読書量は相変わらずすごい。古今東西の古典、小説から専門書に至るまで、とどまるところを知りません。
これを読んで私達読者も新しい本に出会うことができる、その意味で貴重なガイドブックともいえるでしょう。(2012年-19冊目)

「火のみち 上・下」

2012212181922735.jpgDSC_0511-1.jpg◆2012年2月16日
「火のみち 上・下」(講談社文庫)
乃南アサ

戦後の混乱期から始まる、ある男の一生を描いた長編。書かれているのは、お世辞にも社会のお手本的な人物ではありません。しかし炎のような彼の一生に、最後は静かな感動を覚えます。
前半は、少年期の主人公が妹を守るために殺人を犯し服役。出所後、自分の進む道を見つけるまで。後半は、偶然出会った900年前の青磁に魅せられた主人公の後半生が描かれます。
箇所によって「レ・ミゼラブル」のようだったり東野圭吾の「手紙」っぽかったり、統一感がないように見えながら、全体としてみるとちゃんと一本道になっているところが面白いと感じました。
題名の「火の道」は、窯の中で陶磁器を焼くときに、文字通り火の通る道。もう一つは、火のように姿を変えながら燃えさかる、主人公の生き方を示しているように思われます。

ドラマチックな彼の一生で特筆すべきなのは、何といっても「汝窯」との出会いでしょう。汝窯は北宋期に生まれ「雨過天青」と言われるブルーの色が特徴の青磁器。世界に70余点しか存在していないそうです。
ここまで淡々と進んできた物語が、これ以降、雰囲気が一変、極めて情熱的な筆致になります。
汝窯の再現にとり憑かれた主人公が、この世の全てを拒絶して、孤独の中で何者とも知れぬ声に耳を傾けるくだりは、まさに人間性と芸術の戦い。鬼気迫る感じと思いました。
罪とは何か、人は変われるのか、家族とは?芸術とは?様々なことを考えさせられました。

本書を読んで実物が見たくなり、上野の国立博物館の「北京故宮博物院展」に行きました。
小さな汝窯の青磁盤が、陳列ケースの中に浮かんでいます。けぶるようなブルー、鈍く柔らかな光沢、一面を覆う細かい貫入。
照明のせいか、思ったより濃い色ですが、明るい場所で見ると、成程「雨上がりの空の青」なのかも知れません。写真は同展の図録より。
これが、主人公が人生賭けて憧れた、大陸の空の色なのだなと思いながら見ました。(2012年-17,18冊目)
☆☆

特別展「北京故宮博物院200選」

201221619405883.jpg◇2012年2月
「特別展 北京故宮博物院200選」(東京国立博物館)

東京国立博物館の「北京故宮博物院展」に行きました。
すごく混んでいると聞いていたので、早めに家を出て上野へ。
午前中だったので、行列に並ぶこともなく、意外と早く入れました。
今回の展示は日中国交正常化40周年と開館140周年の記念特別展。
第1展示室は書画中心です。
話題の「清明上河図」はすでに本物は終了していてレプリカの展示でした。
とにかく書かれた人の数がすごい!
商売してる人やだべっている人、「あー疲れた」という感じで休んでいたり、ふてくされているような人も見えます。
大群衆の絵を、自分たちも行列になって見ている、というのも面白かったです。

第2展示室は、絵画、工芸や考古資料、清朝の文化がうかがわれる作品が中心。
今回の一番の目的は「汝窯」だったので、見れて良かったです。
ほかに、殷墟から出土した青銅器とか、使い方の良く分からない祭祀器具。工芸では、すごい堆朱とか琺瑯の龍耳瓶とか、見ているうちに自分がハイになってくるのが分かります。
清朝のコーナーでは、カスティリオーネの描いた乾隆帝を見て、浅田次郎の「蒼穹の昴」を思い出しました。
清朝の絵画はそれまでと異なり、西洋技法が取り入れたためなのでしょう、全般に色彩がとても鮮やかなのですね。
そして内容も、ポスターっぽい絵あり文人コスプレありと、多岐に渡っています。
中でも印象的だったのは「是一是ニ図」という、乾隆帝の肖像画。「私は一人?それとも二人?」という謎かけのようなタイトルで、漢服姿の乾隆帝を、壁の絵の中の乾隆帝が見ている、という不思議な絵です。
それから「康熙帝南巡図」。長い長い絵巻物で、その中に「天子萬年」というレタリング風人文字なんかもあって、現代的センスに通じています。
思ったよりずっと面白かったです。中国の宮廷に伝わる文化財は本当にすごいということが分かりました。

大混雑の特別展に較べ、常設展示は嘘のように空いていました。
私の好きな「舟橋蒔絵硯箱」をちょっと見て帰ろう、と思ったところが、あっちこっちに引っかかってずいぶん時間がたっていました。しかも硯箱は見つからず…。
こっちはこっちで、また時間を見つけて来たいと思いました。

ミュージカル「オペラ座の怪人」

20122142252769.jpg●2012年2月14日
ミュージカル「オペラ座の怪人」(劇団四季/電通四季劇場)3
出演:高井治・高木美果・佐野正幸ほか

今日はお昼に日本テレビの「ヒルナンデス」を見ました。
ここ何週間か連続企画で、いとうあさこの「美女と野獣」挑戦企画をやっていて、今日の放送分でいよいよオーディションの当落が分かります。
芸能人だし類似の企画はこれまでにも見ていたので、どうせタイアップでしょ、と思っていたら、いとうあさこの頑張りに本当に感動しました。
ベル役の坂本里咲が前回言っていた「たくさん練習して、いったん全部忘れて、そして舞台上の役になって感情を表現して」という言葉通りに努力したんだなあと思いました。

さて、四季の「オペラ座の怪人」を今年初めて観てきました。
音楽の素晴らしさ、役者の歌のうまさ、このクオリティは私にとって最高です。
最初観たときは、四季の舞台自体よく知らなくて、幕が開いた途端、セットが何て古びてるんだと思ったものでしたが(笑)
それが「ジャーン」というあの音楽とともにシャンデリアが上がると時間が遡行していくのが実感でき、すぐに物語にひき込まれました。
今回のキャストは、怪人は高井治、クリスティーヌは「ウエストサイド」以来、私は久々の高木美果、そしてラウルは佐野正幸でした。
佐野さんはもうラウルはやらないと思っていたのでびっくり。貴族らしさ、歌のうまさ、そしてさすがの存在感!!偶然ですが、本当にいいもの見ちゃった、という感じです。
高木さんは見た目がよく、歌も安定しています。私は個人的には苫田亜沙子のクリスの声のほうが好きなんですが。
高井ファントムの良さはもはや言うまでもありません。また近いうちに、ぜひ観に行きたいものだと思いました。

写真は、劇場の売店でつい買ってしまった「限定版オペラ座の怪人セット」。裏地が赤いマント風の2WAYブランケットとバッグ、ストラップ2種が付いています。

「夢の花、咲く」

201226175314475.jpg◆2012年2月8日
「夢の花、咲く」(文藝春秋)
梶よう子

主人公は北町奉行所同心。といっても「両御組姓名掛」(名簿作成役)という奉行所一番の閑職にある男・中根興三郎。私は読んでいませんが、昨年出版された松本清張賞受賞の「一朝の夢」の続編だそうです。
この主人公、仕事上の野心があるわけでも出世に血眼になるわけでもなく、ただひたすら、趣味である朝顔栽培に精を出す毎日。
しかし正義を愛し弱者を助け、いざというときに素晴らしい推理を見せることがある、といえば、まるで「特命係」のあの人のようでもあります。もっとも、あんなに切れ者っぽくはないですが…。
ストーリーは、斬殺された植木職人の下手人探しと、安政の大地震で困窮する庶民を食いものにする不正の追究、両方が平行して進んでいきます。
連載時期からいって、本作の執筆中にあの震災が起こったのでしょう。地震の描写が生々しく感じます。未曾有の出来事に遭遇したときに、人は何をなすべきなのか?主人公が自問自答する場面に、作者の思いが見て取れる気がします。
結末に向けては、これも「相棒」ばりに、「臭いものには蓋」的な組織を向こうに回して真相を究明しようとする主人公が描かれます。
で、面白かったかというと…うーん、正直私の好みではありませんでした。同じ作者の「柿のへた」で感じた江戸情緒や伸びやかな情感が、前半では朝顔をめぐる描写などに確かに見られるのですが、後半はあまり感じられないのですよねえ。
まるで現代の警察小説かなんかを読んだような読後感。私自身は、時代物にもっと別のものを求めているような気がします。(2012年−16冊目)

「夢違」

20122612239226.jpg◆2012年2月6日
「夢違」(角川書店)
恩田 陸

「夢」をテーマとしたサイコ・ミステリー。
序盤、怖かったです。「夢」って何だろう、というのは未だ解明されざる人類の謎。それが、現代言われているような無意識下の潜在意識の発露ではないのだとしたら…。
舞台は近い未来。「夢札」というものが開発されて、「夢」が映像として可視化され、カウンセリングなどに使われている時代。
ある地方の小学校で、日中、一クラスの児童たちが急に原因不明のパニック状態に。「夢判断」を仕事とする浩章は彼らの「夢札」を視ることになり、そこに信じられないものを見てしまう…という内容。
前半は、謎がこれでもかという感じで重ねられていき、緊張感があります。相変わらず、得体の知れない不気味さを描くのが巧い作家だと思います。
後半は一転、奈良を舞台に、主人公と元恋人をめぐるパーソナルな問題に収斂していきます。
この作者の場合、前半の伏線や謎が回収されないまま終わってしまうことが多々ありますが、本作に関しても、読後よく分からなかった点がありました。
一見、科学と超常現象を組み合わせているようでありながら、その原理の説明がされるわけではないので、ロジックよりも雰囲気で読む作品という気がしました。

追記
上記記事中に、古藤結衣子を「元恋人」と書いていますが、作品中では「兄の元婚約者」となっており、「恋人」と明記されてはいませんでした。
正確を期すためにその旨、追記させていただきます。

(2012年-15冊目)

ミュージカル「エビータ」

20122420552892.jpg●2012年2月4日
「エビータ」(自由劇場)
出演:野村玲子・芝清道・佐野正幸

自由劇場に、初めて「エビータ」を見に行きました。
今年は同作品の日本初演30周年なんだそうです。同じロイド・ウェバー作品である「キャッツ」や「オペラ座の怪人」より古いわけですね。
内容は、貧困層に生まれアルゼンチンの大統領夫人にまでのしあがったエバ・ペロンの一代記。民衆とともにありながら、したたかで逞しい女性でもあります。
見始めてすぐ、あ、自分には面白くない、と思いました。
エバが次々に男を取り換えて名声と権力を得ていくのですが、彼女が一体何を考えて行動しているのか、さっぱり分からないのです。
私が思うに、これはエバの心理描写が極端に少ないからではないでしょうか。
作劇上の共通点も多い東宝や宝塚の「エリザベート」が、皇后の内面を深く掘り下げているのと較べると、その違いは歴然としています。現代の観客には心理面中心の描き方でないと受け入れ難いのではと思いました。
制作時にはエバの事蹟が世界中の人々に記憶されていたと思われます。なので観客が彼女のイメージを捉えやすかったのでは。

エバ役の野村玲子さんは声の調子が悪いのか、歌がやや不安定な印象。しかし、一緒に組もうとペロンを誘う歌が、次第にねっとりとした歌い方になっていくあたり、さすがです。
チェの芝清道は歌、抜群に上手いですね。「キャッツ」のマンカスやタガーのおかげでおちゃらけたイメージでした。すみません。
ペロンの佐野正幸、マガルディの渋谷智也はよく合ってたと思います。
「キャッツ」でお馴染みの団こと葉、岩崎晋也、永野亮比己らもダンサーとして出演していて、少し嬉しくなりました。
写真は本作のチラシと、「エビータ」×「オペラ座」「キャッツ」3作品キャンペーンで貰ったスライド・ミラーです。

「青い壺」

201222214028476.jpg◆2012年2月2日
「青い壺」(文春文庫)
有吉佐和子

一口の青磁の壺をめぐる風変わりな短編連作集。
家族や同僚、友人などの人間関係に潜む感情の機微。これらが13の短編作品になっています。
すべての話に青い壺が登場し、その傍らで人間の営みが繰り広げられる様は、まるで壺が語り手として喋ってでもいるようです。

たとえば第二話目。
熟年の夫婦が、日ごろ目に懸けている若い男女の仲を取り持とうとします。
しかし見合いの日、夫の留守中に別々に訪問してきた彼らは、いずれも「訳あり」系。
女は、自分が実は一児の母であると告白して帰ってしまいます。
遅れてきた男の方は、愛人がいること、それも「惰性と向こうの意地」で付き合っているだけなのだと嘯きます。
その間、妻は青い壺に花を活けようとしますが「なかなかきまらない」。あたかも、人間同士の組み合わせが、なかなかしっくりとはまらないように。
お話はこれだけなのですが、妙に余韻があります。本作が書かれた当時の恋愛観もさることながら、帰り際に二人がそれぞれの事情を、夫には内緒にして欲しいと頼む理由についても、何かがあるのではないかと想像してしまいます。

このように「書かないことによって語る」というところに、作者の熟練の技を見ることができます。
そして、ミステリー全盛の現代においても、一番ミステリーを感じさせる題材は、実は人間の心なのだなということを思います。(2012年-14冊目)

「爆笑問題の忠臣蔵」

2012129104754152.jpg◆2012年1月29日
「爆笑問題の忠臣蔵」(幻冬舎)
爆笑問題

爆笑問題の二人の対談形式で展開される「忠臣蔵」漫才集。電車の中で思わず声出して笑ってしまいました。
「忠臣蔵」の一ファンである私ですが、笑いながら、本当にその通り!と頷けてしまうところもあり、感心しました。
確かに「忠臣蔵」事件って不思議なところもあるんですよねえ。内匠頭刃傷に至る真の動機とか、なぜ庶民があれほどまでに吉良を憎み、浪士達を熱狂的に支持したのか、とか。
そんなことを考えながらも、瞬発的なギャグや時事ネタの嵐、それに各章のひとコマ漫画に吹き出してしまいます。
「忠臣蔵」好きの人、歴史好きの人にオススメしたい本です。(2012年-13冊目)☆

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