千両過眼

東京在住の会社員です。読書、舞台、展覧会の感想などを書いています。

2014年03月

「首折り男のための協奏曲」


◆2014年3月24日
「首折り男のための協奏曲」(新潮社)
伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の短編集。
各短編のエピソードや登場人物がつながって、全体でゆるやかに一つの世界を形成しています。
タイトルにある「首折り男」は、作中で特殊な殺害方法をする殺し屋。しかし「時々良いことをして、バランスを取りたくなる」。
彼の「良いこと」によって救われる人がいて、世の悪意や理不尽がこんな風に本人の知らぬ間に解決されたら、とついつい思わされてしまうのだけれど、果たしてそれでいいのだろうか?とも思います。
伊坂作品の常で、読んでるときは面白いのですけど…。その辺りの感覚に何となく割り切れなさを感じます。

そのほか、珍しい恋愛話や恐怖話などの短編を収録。
最後の合コンの模様を延々と実況するような話は、何なんでしょう、これは?どういう読み方をすべきかよく分からない短編。
何となく著者の「砂漠」なんかを思い出させる一方で、不思議な展開に戸惑います。
(2014年-22冊目)

「細川家 珠玉の名碗」


○2014年3月29日
永青文庫コレクション「細川家 珠玉の名碗」(Discovery Museum)

羽田空港構内の美術館。旅行のときに立ち寄りました。
以前もここで利休の茶杓などを見たことがありました。今回は細川家所蔵の茶碗の展示。

空港内の施設だからと侮ることなかれ、中国・朝鮮伝来の茶碗のほか、楽家や近代作家の作品まで、さすが細川家!と思わせる正統派コレクションの展示です。
なかでも細川三斎が長次郎に焼かせたという黒楽茶碗「おとごぜ」は、ふっくらとして星空のような景色、小宇宙を内包したような趣です。おとごぜは「乙御前」、お多福の意味だそうで、光悦にも同じ銘の赤楽茶碗があるようです。
ちょうど読んでいた葉室麟の「山桜記」に、三斎やガラシャが出てくるので、興味深かったです。
横山大観や下村観山が絵付けした六兵衛作のものや、河合寛次郎の彩色茶碗。桃山の名品もそればかり見てるとやや飽きてくるので、こういうのもいいなと思いました。
ここは入場無料のうえ、全展示品のカラー写真入りのチラシをくれます。後で展示を思い出せるので重宝です。

ミュージカル「マンマ・ミーア!」


●2014年3月25日
ミュージカル「マンマ・ミーア」(劇団四季・四季劇場<秋>)3
出演:樋口麻美 岡本瑞恵 八重沢真美 鈴木釉佳之 荒川務 味方隆司 深水彰彦 田邉真也 一和洋輔 ほか

浜松町の四季劇場に「マンマ・ミーア!」を観に行きました。
シングルマザーと結婚を控えた娘、そして娘の父親かも知れない3人の男をめぐるストーリー。

全体的にはコメディ風味ですが、それだけではなくて、人間の喜怒哀楽や、生きる喜びみたいなものが表現された芝居です。
樋口ドナは、笑ったり怒ったり泣いたりと表情豊か。「チキチータ」のところで、涙がすーっと頬に流れてびっくり。俳優ってすごいなあと思いました。
岡本ソフィが結婚式の衣装を着せられるシーン、どんどん泣き顔になっていくところも同様です。見ている方も思わずうるっときます。

サムは荒川務。前回は阿久津サムだったので、年齢的には上がりました。押しの強いイメージの阿久津さんとはニュアンスも違ってきます。
ダイナモスは、八重沢ターニャ、釉佳之ロージー。歌うまです。八重沢さんの表情が面白くて、笑いました。
カーテンコールは「ダンシング・クイーン」で盛り上がりました。終演後のロビーも感想を言い合うお客たちで賑やか。この作品は、人の心を明るくするミュージカルだなと思います。

ミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ」


●2014年3月23日 昼公演
ミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ」(日生劇場)
出演:市村正親 濱田めぐみ 田代万里生 彩吹真央 鳳蘭 山田暎瑠(子役) ほか

日生劇場で上演中の「ラブ・ネバー・ダイ」を観劇しました。
アンドリュー・ロイド=ウェバー本人による、「オペラ座の怪人」の続編です。あの名作に続編なんて!と思いつつも、怖いもの見たさ(笑)もありチケットを取りました。(ややネタバレあります)

パリ・オペラ座の事件後、ファントムはジリー母子の助けによってニューヨークに脱出。その10年後、クリスティーヌとラウルがニューヨークにやって来ます。登場人物たちの運命の歯車が再び回り始める、というストーリー。
この日のキャストは、市村ファントム、濱田クリスティーヌ。田代ラウル、彩吹メグ、鳳マダム・ジリーという組合せでした。

幕開き、宙に浮かぶスポットライトの中、ファントムの嘆きが歌われます。市村さん、声軽いけど、これはまあ慣れるかな。
お話はイリュージョン溢れる遊園地が舞台。猥雑で俗っぽい見世物小屋的世界が展開します。クリスティーヌとラウルが登場。借金苦でアル中のラウル、夫婦仲もいまいちの二人。
「オペラ座」が作品世界の根幹に格調高い古典美を意識してるなら、「ラブ・ネバー・ダイ」は、その逆ですね。苦悩を歌いながらも、平安貴族のように品よく折り目正しかった登場人物たちは、その卑小な人間的内面をあらわにします。オペラ座を支配していたファントムのカリスマ性はもはやなく、あるのは虚勢と弱気が見え隠れする中年男の姿。
ファントムとクリスティーヌの昼メロ的秘め事も明らかに。クリスティーヌを連れ去ったオペラ座の地下での出来事と考えた方が、まだすっきりすると思いますが…。
極め付きは酒場でのファントムとラウルの争い。口喧嘩するファントムの余りの人間臭さに笑ってしまいました。

このような新ファントム像を、市村さんはとにもかくにも一個のキャラクターとして見せてくれます。日生で市村さんというと、私はどうしてもテヴィエやアルバンを思い出してしまうので、そのイメージを振り払うのに苦労しました。
めぐクリスティーヌは、芝居も歌もさすがです。「愛は死なず」はいい曲だけど、彼女のキャラには合っていないように思いました。
田代ラウルは若すぎてクリスティーヌとの釣り合いが取れてません。マダム・ジリーの鳳蘭は得体の知れない貫禄があって、もうこれはこの人ならでは。メグ・ジリーの彩吹はキャラとしては弱いと感じました。
これは脚本の問題と思いますが、最後、皆がバタバタして芝居が軽くなっていくような気がして残念でした。

楽曲の方は「オペラ座」の続編と思うと、正直きついです。多分、誰が歌っても私は好きになれなかったと思います。時々「マスカレード」とか「リトル・ロッテ」の旋律が流れるとハッとしました。 あらゆる面で、オリジナル版「オペラ座」との落差が大きくて、戸惑いを覚えました。二匹目のドジョウ狙いで別の人が作ったヒット作の続編が、よくこんな感じの作品になってしまいますが、これをロイド=ウェバー自身がやっちゃったのは不思議です。
四季でこれを上演しなかったのは、一貫性の意味からも良かったと思います。
カテコでは、鹿賀さん休演による連投の市村さん始め、キャストに大拍手。作品的には物足りない気がしましたが、セットの豪華さなどが印象に残りました。

宝塚星組公演「眠らない男 ナポレオン」


●2014年3月22日
宝塚星組公演
ル・スペクタクル・ミュージカル「眠らない男 ナポレオン-愛と栄光の涯に-」(東京宝塚劇場)
出演:(星組)柚希礼音 夢咲ねね 紅ゆずる 真風涼帆 十輝いりす 礼真琴ほか(専科)美穂圭子 北翔海莉 ほか

宝塚歌劇100周年で「宝塚から世界へ発信するオリジナル作品」を目指したというミュージカル。
作曲は「ロミオとジュリエット」のジェラール・プレスギュルヴィック、作・演出は小池修一郎が担当しています。
久々の星組観劇、人気絶頂の柚希礼音主演ということで、張り切って出掛けました。

劇場は、至るところに100周年の飾り付けがしてあって華やかです。今回は前方センターの席。
作品の方は、フランス皇帝ナポレオンの一生を、妻ジョセフィーヌとの関係を絡めながら描いています。衣装やセットが近来まれにみるゴージャスさである割に、内容は平板で、百科事典か何かを読んでいるようでした。
ナポレオンの事績を紹介するのに忙しく、肝心の心理描写がこちらの心に響いてきません。ジョセフィーヌがナポレオンへの愛を実感するくだりや、ナポレオンがジョセフィーヌと離婚する際の葛藤など、取って付けたようで、これわざわざ二幕物にする意味あるのか?と思いました。
あ、それでも戴冠式の場面は良かったです。それとロシア遠征の雪の場面も。冒頭、フォークリフトでせり出してくる机にはたまげましたが…。
しかし何といってもスゴいのは、主演男役の柚希礼音の存在感。ほとんど柚希のキャラの魅力で最後まで見せられた感じがします。後半、苦悩しながらも前に進もうとする姿にスケールの大きさを感じました。 ジョセフィーヌ役の夢咲ねねは、年上の妻という役どころに忠実に演じています。マルモンの紅ゆずる、ミュラの真風涼帆もタイプの違う役を好演。専科の北翔海莉、美穂圭子が抜群の演技力、歌唱力で芝居に重厚感を出していたと思います。

ショー部分では紅、真風が活躍してて、花道の両端のセリではけるのがカッコいいです。男役たちのナポレオン帽の群舞はちょっと微妙。デュエットダンスでは、夢咲の衣装が蜘蛛の巣のようなデザインで。
ロケットが面白く、金の羽と冠付きの衣装。礼真琴の表情が素敵過ぎて、目が離せませんでした。

「怒り 上・下」


◆2014年3月19日 「怒り 上・下」(中央公論新社) 吉田修一 最近「らしくない」作品が続いていましたが、久々に吉田修一を読んだ~という感じでした。ミステリーぽい書き方で、人間の心の奥底を描いた秀作です。 冒頭、殺人事件の生々しい描写から始まります。犯人は逃走、被害者宅には、壁に書かれた「怒」の血文字。 普通のミステリーなら、犯人像や犯行動機が少しずつ明らかになっていくところですが、そこは吉田修一、一筋縄ではいきません。 ここから交互に語られるのは、全く別々の場所に住み、生まれも境遇も異なる人々を描いた3つの物語。彼らはゲイだったり歌舞伎町から故郷の漁村に連れ帰られた娘だったりで、それぞれ社会との距離感を感じているという設定。 そんな彼らの前に、素性も前歴も分からない青年たちが現れます。それぞれの場で深まっていく人間関係。 しかし時が過ぎるにつれ浮かんでくる「もしや、彼が…」という疑惑。 「悪人」では、寂寥を心に抱えた主人公の傍らに、彼に惹かれる女性を登場させることで、純愛小説の趣がありました。終盤の逃避行は浄瑠璃の道行きのような哀切さとともに、生命の輝きが表現されていたと思います。 本作の場合は「愛した(信じた)相手を、本当に信じきれるかどうか」ということに焦点が当たっていて、よりシビアな展開です。文章が素晴らしく上手いだけに、読んでいて切ない気持ちになりました。 最後の最後、ちょっぴり光明があるのは救いです。一方で、もっとも大きな闇の正体には触れられぬまま。 私が思ったのは、今の時代、人の心理や動機について明快に理屈付けしうる言葉は存在しないのではないかということ。その意味で、不気味な「怒」の文字は、冒頭の犯人を語るのにかえって妙な説得力を感じさせます。 タイトルにはこの逃走犯と、信頼を裏切った者に対して行動を起こさざるを得なかった者の怒り、両方の意味が込められているのかなと思いました。 (2014年-20,21冊目)☆☆☆☆

「ちょっとパリまで、ず~っとパリで 渡欧日本人画家たちの逸品」


○2014年3月17日
特別展「ちょっとパリまで、ず~っとパリで 渡欧日本人画家たちの逸品」(泉屋博古館)

19世紀末から20世紀初頭にかけて渡仏した日本人画家たちの作品を、住友グループの所蔵品で辿る展覧会。黒田清輝、梅原龍三郎、安井曽太郎、佐伯祐三ら、名だたる画家たちの作品が並びます。

この頃のフランスは印象派からフォービスム、キュビスムと、革新的絵画の繚乱期。画家たちは渡仏時期に様々な影響を受けたことと思われます。
自然、建物、風景、人物、静物と、描かれる対象が多岐に渡っています。街並みやカフェの佇まい、木々の木漏れ日…。画家たちがその眼で、対象のどこに関心を持ち、美を見出したのかということに興味を引かれます。
最初のコーナーでは、浅井忠の水彩画「グレーの森」「河畔洋館」が思った以上に繊細で美しい絵でした。
藤島武二の「黒衣の婦人」も目を引きます。ブリヂストン美術館の「黒扇」と同モデルだそうです。その隣にある「幸ある朝」は、“朝の幸福な感じ”を表現したという、手紙を読む婦人像。表情よりも、朝の柔らかな光と卓上の花の存在で、絵のタイトルが納得できます。
藤田嗣治「Y夫人の肖像」は、今展で一番印象に残った作品。乳白色の肌、周りに猫、の藤田らしい婦人像。表情が素敵です。背景に金箔を使ってあったりして、日本画的手法への意識を窺わせます。

住友家のために描かれたという坂本繁二郎の大作「二馬壁画」はとにかく大きな絵です。“馬の周囲のものまで輝いて見える”というぐらいだから、本当に馬が大好きだったんですね。
面白いのは、住友家の支配人に向けた「麻布邸壁画に添う書簡」が併せて展示されていること。画家の筆で、絵を巻いたままだとカンバスがくっつくので乾燥した場所が安全であるとか、やむなく巻くときには外向きに巻かないとひびが入りやすいといった注意が細々と書いてあり、納品した後も色々心配だったんだなということが見て取れます。
自作を納めるのは、わが子を里子に出すような気持ちなのかも知れません。


そのほか、女性の表情が美しい木下孝則「バレリーナ」、絵具を重ねて、てらてらした光る質感を表現した佐伯祐三の珍しい「鯖」などが印象的でした。
美術館の周りにはカンヒザクラが満開(写真)。もう少ししたらソメイヨシノも開き始めます。

「夏の名残りの薔薇」


◆2014年2月28日
「夏の名残りの薔薇」(文春文庫)
恩田陸

恩田陸のミステリー。
著者が、先頃亡くなったアラン・レネ監督の映画「去年、マリエンバートで」が好きなんだそうで、本作執筆時にイメージ的指針にしたようです。
映画の台本らしきものが合間合間に挿入されています。

金持ちの老いた三姉妹が、山奥の豪華なホテルに客を集める年一回の催し。
お話は第6章(第6変奏)まであり、各章そこに集った登場人物の異なる一人称視点で書かれています。視点が変わっていくのは恩田作品によくあるスタイル。
一人一人の述懐は微妙に食い違い、たとえば前章で死んだ筈の人が生きていたり、その逆だったり、文字通り変奏曲のように話が流れていきます。一体どれが事実なのか?そして各章の中で語られる、三姉妹が披露する不気味な創作話の方が、根っこにある真実を次第にあらわにしていくという展開。
後半まで読むと、この「変奏」が、登場人物それぞれの内的動機に従った「記憶の改竄」だと分かってきます。物語の構造が面白いです。本作は「捏造された過去と記憶の物語」たる映画のイメージを借りながら、人間の心の不思議を映した物語といえるでしょう。

この著者には、幻想と現実が入り混じって境目がよく分からない作品、結末をきちんとつけずに放り出されたように見える作品があります(後者にはたびたび泣かされますが…)。
しかし巻末のインタビューを読むと、著者の中では、それらが何ら矛盾や不都合なく成立していることがよく分ります。
ちなみにこの作品に関しては結末に一応は決着がつけてある(種明かしをしている)ので、いつもほど読後もやもやしなくて済んで、良かったです。

写真は、緑寿庵清水のボンボニエールです。
(2014年-17冊目)

「インフェルノ 上・下」


◆2014年3月12日
「インフェルノ 上・下」(角川書店)
ダン・ブラウン/越前敏弥訳

ダンテの「神曲」を題材にしたミステリー。ダン・ブラウンは映画「ダ・ヴィンチ・コード」を観たことぐらいしかなくて、読んだのは初めて。
ダ・ヴィンチ・コードにも出てきたラングドン教授(映画ではトム・ハンクスが演じていた。今回は記憶を失っている)と美人女医が出てきて、ロールプレイング的に謎を解いていきます。
その謎とは、ダンテから着想されたある計画に関係するもの。
これもダンテにインスパイアされたというボッティチェリの絵「地獄の見取図」が重要な鍵を握っています。
長いので、多少まだるっこしさを感じますが、いろんな場所を巡っての謎解きが面白いです。フィレンツェやヴェネツィアに行ったことがある人なら、何倍も楽しめそう。美術にまつわる蘊蓄もわくわくさせてくれました。

ヴェネツィアのくだりで、映画「リトル・ロマンス」のサンセット・キスの舞台の一つ「ため息橋」について言及されています。
当時14歳のダイアン・レインが一躍脚光を浴びた映画で、私もラングドンと同じく、子供の頃、映画館で観ました!
恋人たちの伝説に彩られたロマンティックな場所と思っていたこの橋が、実は中世には囚人を捕らえた監獄につながっていて、そのためにこの名前が付けられたと知って、びっくり。

写真は「神曲 地獄編」(集英社版、寿岳文章訳)。学生時代に読もうとして挫折した本です。今めくっても重々しくて、ウィリアム・ブレイクの挿絵が怖いです。
最近美術展で見たロセッティの絵にも「神曲」を題材にしたものがありましたが、ダンテのこの大作がどれだけ多くの人に衝撃を与えたかということが分かります。
(2014年-18,19冊目)
☆☆

ミュージカル「ウィキッド」


○2014年3月5日
ミュージカル「ウィキッド」(劇団四季,電通四季劇場)
出演:鳥原ゆきみ 岡村美南 保城早耶香 中野今日子 松島勇気 山本道 菊池正 松下武史   9

昨日の「ウィキッド」は、メインの配役が初めて見る組合せで、楽しかったです。
劇団四季の場合、キャストを知らないまま何ヵ月も先のチケットを取るので、誰が来るかは運任せ。でも、突然思いもかけない組み合せに当たることもあって、まさに昨日はそんな感じでした。

まずは先週からグリンダ役デビューの鳥原ゆきみ。苫田亜沙子のナチュラルな感じと比べて、一生懸命過ぎて固さが目立つ感じ。ぶりっこが前面に出ている苫田に比べると優等生キャラな気がしますが、どんなグリンダなのか、まだ私にははっきりとは見えていません。でも上背があってドレスが似合うし、声もきれいなので、次回以降また見たいです。
私は初見だったエルファバ役、岡村美南。立ち姿が抜群。黒いドレスと帽子の似合うことといったら!芝居も歌も端整ですが、聞かせるところでちゃんと聞かせてくれるのがいいです。一幕最後の「自由を求めて」は素晴らしくて、知らず知らず私は涙ぐんでしまってました。
この二人の組み合せだと、お互いの感情がストレートにぶつかってるように見えます。とくにエルファバは気が強くて、最初からグリンダに負けていません。それが友情へと変化していき、ラストの二人で歌う「あなたを忘れない」が心に響きました。
内容がいい時って、後半にいくほどエルファバが好きになっていきます。顔のこしらえ、衣装なども含めて、この舞台は意図的にそういう作りになってるんでしょうね。

フィエロ役は前回に続いて松島勇気。前回はふと「あれ、何で松島くんがここに?」と途中我に返ったものでしたが、すっかり慣れました(笑)。銅像やダンスホールでの身のこなしがさすがです。そして、ラストではやっぱりフラフラになりながら、「体が藁になってしまった」ことを表現します。
グリンダに真相を知らせたらというエルファバに対し「誰にも知られちゃいけないんだ」という台詞、印象的でした。
モリブル先生は久し振りの中野今日子さん。ディラモンド教授は、私は初見の菊池正さん。アンサンブルは結構入れ替わってましたが、永野亮比己さんのダンスは相変わらずきれいです。

舞台を見ながら、元ネタの「オズの魔法使い」に劣らず、「ウィキッド」は暗喩と寓意に満ちた物語なのだなあと改めて思いました。
権力者による弾圧で自由を奪われ、言葉が失われた世界で、それぞれ別々の道を歩んだグリンダとエルファバは、大切なものを失いながらも自分の道を生きていく、それがよく表現された舞台でした。
記事検索
最新コメント
アーカイブ
  • ライブドアブログ