千両過眼

東京在住の会社員です。読書、舞台、展覧会の感想などを書いています。

2015年01月

「キャプテンサンダーボルト」

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◆2015年1月26日
「キャプテンサンダーボルト」(文藝春秋)
阿部和重 伊坂幸太郎

阿部和重と伊坂幸太郎の共著。執筆をどう進めたかについては、文藝春秋のHPにご本人たちの対談が載ってて、興味深かったです。
再会した少年野球時代のチームメイト、相葉時之と井ノ原悠が得体の知れない事件に巻き込まれてしまうというストーリー。東京大空襲の日に蔵王に墜落したB29、お蔵入りした子供向け戦隊ものの劇場版。これらの謎を解いて真実に迫っていく展開はテンポよく、読み応えがありました。
少年時代に夢想した自分と現実とのギャップについて、ついつい二人が考えてしまうところが印象的。果たして、人生に大逆転はあるのか?
二人と一緒に行動することになる桃沢瞳のキャラクターも面白く、爽快なエンタテインメント作品でした。

写真は、相模湾の夕暮れです。
(2015年-4冊目)☆☆☆

「渾身」

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◆2015年1月18日
「渾身」(集英社文庫)
川上健一

過去に二冊読んだ著者の小説は、いずれも成長期の少年の心を力強い筆致で描いたものでした。
「渾身」は、これとは趣が異なっています。勝負事の話であると同時に、家族の話であり、そして地域社会に根差した共同体の信仰的な部分なんかもひっくるめた関係性のお話です。

隠岐の古典相撲大会が題材です。神事として行われる古典相撲では住民総出で力士を盛り立て、応援する習わし。なかでも役力士に選ばれるのには地域への貢献とか人格も重要視されるそうです。大相撲でもよく横綱の品格とか言いますが、これと通じるのかも知れません。
生家に勘当されていた英明は思いがけず、役力士の最高位、正三役大関に選ばれ、一身に町の期待と責任を背負うことになってしまいます。妻の多美子は、英明と前妻との間に生まれた娘・琴世とともに、緊張して土俵を見詰めるのでした。

とにかく相撲の勝負の描写がすごいです。力と力のぶつかり合い。実力伯仲の上、地元の名誉が掛かっている取組なので、両陣営の必死さが文章からよく伝わってきます。
何と驚くことに、冒頭の数頁と思った取組の描写が、どこまでも続いていきます(もちろん合間に土俵の周りの様子や多美子たちの胸中も描かれますが)。それでも全く飽きさせず、溢れる臨場感!
こんな小説は他に読んだことがありません。心が熱くなると同時に、何か真っ直ぐなものを訴えてくる作品だと思いました。

写真は、車窓から見た富士山です。
(2015年-3冊目)☆☆☆

ミュージカル「マンマ・ミーア!」

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●15年1月17日
ミュージカル「マンマ・ミーア!」(劇団四季,四季劇場<秋>)
出演:江畑晶慧 岡本瑞恵 光川愛 鈴木釉佳之 阿久津陽一郎 百々義則 脇坂真人 鈴木涼太 安宅小百合 若菜まりえ ハンドコ・アクアリオ 高橋徹 8

今年初めて「マンマ・ミーア!」を観劇しました。
結婚間近の娘と母、娘の三人の父親候補をめぐるストーリー。笑ったり泣けたり、観ていてとっても忙しい芝居です。
全体で見ると人生賛歌といってもいい内容。そのためか、この舞台を観ると元気が出る気がします。

私が好きなシーンの一つが、島に来る船の中で知り合ったらしいサムとビル、ハリーが、タベルナのバーで互いの身の上について語り合う序盤のくだり。
ドナと知り合いという共通項のほかに、三人とも21年前にこの島に来ていることが判ってきて…。
どこかかみ合わない会話とか、ちょっぴりミステリーなストプレ風雰囲気とか、ソフィーに説得されて三人が滞在をOKする「音楽をありがとう」とか、いいですねえ。優しく楽天的なハリー、自由人のビル、そして過去のことを気にする現実主義的なサムと、各々の個性が出ている場面でもあります。
特に、阿久津サムの穏やかな押し付けがましさ、最高です(笑)
一幕ラスト「ヴレヴ」でのエスコートに対する反応なども、三者三様で面白いです。

この日のキャストはダイナモスが前回から総替わり、江畑ドナ、光川ターニャ、釉佳之ロージー。ハリーが久々の百々義則。
江畑ドナはパワフル。光川ターニャと釉佳之ロージーは歌が上手で声も合っているので「チキチータ」がきれいでした。釉佳之ロージーは青山ロージーほど変人ぽくなく、むしろしっかり者な感じなので、「テイク・ア・チャンス・オン・ミー」のところも違和感ないです。
キャストはバランスもよく、うまい人ばかりだったので、安心して観られました。
カーテンコールの「マンマ・ミーア」「ダンシング・クィーン」「ウォータールー」は、いつものようにルミカライトを振って大興奮でした。
この演目はもうすぐ東京千秋楽を迎えますが、寂しくなるだろうなあと思います。

サントリー美術館「天才陶工 仁阿弥道八」

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○2015年1月15日
「天才陶工 仁阿弥道八 のびのびと、まじめに」(サントリー美術館)

「仁阿弥道八」展を見に行きました。
仁阿弥道八は19世紀の京焼の陶工で、現代に続く高橋道八の二代目。
出光美術館の「仁清・乾山展」にもいくつか出ていましたが、先人の作品にインスパイアされた写しや、動物などを象った大胆な造形物が多く見られます。
今回はそれだけでなく、茶道具を始めとした様々な仁阿弥の焼物が一堂に会していて、壮観でした。
特に印象的なのは、やはり彫塑的な手焙や炉蓋の類でしょう。僧形をした狸の炉蓋などは、ユーモラスでちょっと不気味。これが茶室にあると正直ビビりますね。
色絵桜楓文鉢などの色絵や刷毛目、銹絵、楽焼風の茶碗まで、まさに何でもござれの作風。現代人から見ても魅力的で、これを受容する価値観が当時から現代まで、直接的につながっていることが実感できます。

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帰りに同じミッドタウンの中にあるデザインハブの「第54回日本クラフト展~DNAにひびくデザイン」展をのぞいてみました。
一般や学生の作品を含むクラフトの受賞作を展示しています。
木だけで作ったスプリングチェアや形にとらわれないテーブルウェアなど、創意や遊び心を感じる作品が多く、見ていて楽しかったです。

「劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ」

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●2015年1月
「劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ」(電通四季劇場)

電通四季劇場で「劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ」を見ました。
四季のミュージカルナンバーによる歌とダンスを中心としたショー。よく行く演目、よく知った曲が多く、楽しめました。
曲とシーンの組合せが面白く、映像が印象的に使われていたと思います。

一幕冒頭、メサイアのハレルヤ、そして「マンマ・ミーア!」の『音楽をありがとう』と続きます。
ここで“ありがとうの手紙”と題して、事前応募した家族や友人への手紙を出演者が読み上げてくれます。なんと、この時に私への手紙が読み上げられて!こんな企画があることも知らなかったのですが、本当にサプライズで感激でした!!
「リトルマーメイド」から『パパのかわいい天使』を雅原慶が歌うのが、憎まれ役のアースラっぽさが出ていて、なかなかです。
「オペラ座の怪人」からは『ハンニバル』『スィンク・オブ・ミー』『墓場にて』。久々に「オペラ座」が観たくなりましたね。新クリスティーヌの山本紗衣は私は初見です。正統派のクリスティーヌと思いました。ファントム・パートは芝清道。吉田絢香のカルロッタも本役で聴きたいです。
「アスペクツ・オブ・ラブ」の『パリの縁日』は、舞台が野球場に。観客の男性がバッター役をさせられ、おまけに走らされ、とても大変そうでした。
一幕の締めは「ジーザス・クライスト=スーパースター」から。ユダの曲を芝清道が歌いました。

二幕は、まず「アラジン」から3曲。写真では何度も見た瀧山久志ジーニー、実物を初めて見ましたが、期待できますね!
「キャッツ」からは、いつものメドレー。今回はミストフェリーズ・ナンバーのダンスが公演時とかなり近くて(しかも松島ミスト)、五反田の頃を思い出しました。
劇場が盛り上がる『アンダー・ザ・シー』『ビー・アワー・ゲスト』のあと、「ライオンキング」の『サークル・オブ・ライフ』。
「キャッツ」の『メモリー』に続いて、ここでも雅原慶がラフィキのパートを歌ったのだけれど、とても雰囲気があって、これも本役で見てみたいと思いました。

「銀漢の賦」

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◆2015年1月14日
「銀漢の賦」(文春文庫)
葉室麟

葉室麟さんの「銀漢の賦」を読みました。
恐らく九州辺りかと思われる西国の小藩・月ヶ瀬藩の御家騒動を題材にした長編です。

人の一生はそれぞれ。子供の頃に机を並べた二人でも、その後の人生は全く違ってしまいます。
本作の松浦将監と郡方の日下部源五は幼馴染み。それぞれの生き方の違いから、ある時から仲違いしてしまい、今や老境に差し掛かろうとしています。
藩政を取り仕切るだけでなく詩文や南画をよくし、江戸にまで名家老として聞こえた将監。かたや郡方のままで一生を終えそうな源五。身分も声望も大きく隔たってしまったこの二人が、長い時間を超えて向かい合います。
屋敷を訪れた源五に打ち明けごとをし、あることを頼む将監。ここでの二人のやり取りが実に良かったです。
二人の絶縁のきっかけになった出来事は余りにも決定的で、簡単に和解できるわけではないものの、それはそれとして、二人が別の道を歩みながらも根本のところで相手を信頼し、その生き方を肯定していることが、阿吽の呼吸のうちに伝わってきました。

この作品には、のちの葉室作品につながる要素がいくつか含まれているように思います。とくに、大事のためにあえて犠牲を厭わない将監の生き方に「秋月記」を思い出しました。
将監はのちに、谷文晁の「公余探勝図」制作にも協力した、と書いてあって、そういえば先日、根津美術館でこれを見たことを思い出して、嬉しくなりました。
最近の自由で、時には遊び心さえある葉室作品に比べると、やや固い印象を受ける部分もありますが、それでも人の生き方を丁寧に、真摯に描いた佳品と思いました。

明日15日(木)から始まるNHKの木曜時代劇「風の峠~銀漢の賦」では、源五を中村雅俊が、将監を柴田恭兵が演じるそうです。楽しみです。
(2015年-2冊目)☆☆

「ナオミとカナコ」

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◆2014年1月3日
「ナオミとカナコ」(幻冬舎)
奥田英朗

正月休みの間に、奥田英朗さんの「ナオミとカナコ」を読みました。まさに手に汗握る展開でした。
(ややネタバレあります。未読の方はご注意下さい)

直美と加奈子は大学時代からの親友。直美は日本橋にある百貨店の外商勤務、加奈子は専業主婦で銀行員の夫と二人暮らし。対照的な二人ですが、序盤は直美の大金持ちの顧客たちの話で、掴みはバッチリです。
加奈子のDV話が出てきた辺りから、様相は一変します。
夫への恐怖が先に立つ加奈子に対し、明美が言い出します。「いっそ、二人で殺そうか。あんたの旦那」
普通に考えれば余りにも飛躍した提案。しかし、この辺りの会話の説得力が絶妙でした。

とにかく、女性二人のバイタリティというか強さに圧倒されます。
初めは二人とも世間の荒波に今にも沈んでしまいそうだったのが、どんどん強くなっていくんですよね。とくに最初はDV夫に支配されるだけだった加奈子の肝が座っていく、その変化が興味深いです。
理屈より感覚優先で物事を決めていくところとか、場当たり的なのと計画性のバランスが取れていないところとか、あるいは不思議な自己肯定感とか、二人の行動と思考は危なっかしいながらも、これぞ人間!という感じで、そういうところにリアリティを感じました。
今年読んだ最初の本でしたが、期待に違わぬ面白さでした。

写真は、カレッタ汐留のイルミネーション。1月12日までやっているそうです。
(2015年-1冊目)
☆☆☆☆

2014年下半期の読書

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◆2014年下半期の読書

昨年下半期は読んだ数が少なかったこともあって、全体に低調でした。
その中では、下記の本が印象に残りました。

「翼はいつまでも」川上健一
教師によるイジメなども描かれているのですが、土の中から図太いタケノコが育っていくように、主人公がそれに負けてないところが良かったです。
根底に、とてもみずみずしく、美しいものが流れている小説だと思います。

「天の梯 みをつくし料理帖」高田郁
ついに「みをつくし」が完結!とにかく完結してくれて良かったです。しかもハッピーエンドでなお良かった。
毎巻、首を長くして続きを待っていた日々が懐かしく思い出されます。

「刀伊入寇 藤原隆家の闘い」葉室麟
歴史に伝奇的要素を加えた時代小説。前半で権謀渦巻く平安朝の宮廷、後半で武士達を率いて女真族と戦う藤原隆家が描かれます。
隆家の一生は成程、闘いの連続だったのだなと思わされました。

昨年一年間の私的ベストテンは
①「海うそ」梨木香歩 ②「怒り 上下」吉田修一 ③「利休の茶杓 とびきり屋見立て帖」山本兼一 ④「壺霊 上下」内田康夫 ⑤「村上海賊の娘 上下」和田竜 ⑥「翼はいつまでも」川上健一 ⑦「刀伊入寇 藤原隆家の闘い」葉室麟 ⑧「天の梯 みをつくし料理帖」高田郁 ⑨「優雅なのかどうか、わからない」松家仁之 ⑩「泣き虫弱虫諸葛孔明 第四部」酒見賢一

「海うそ」が最大の収穫でした。「とびきり屋」は続きが読めないのが悲しいです。
今年は面白い本にたくさん出会いたいです。
写真は、雪の中の西王母です。

「GOSHICK BLUE」

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◆2014年12月27日
「GOSHICK BLUE」(KADOKAWA)
桜庭一樹

「GOSHICK」新シリーズの2巻目です。
ニューヨークの街で、新しい生活の第一歩を踏み出したヴィクトリカと一弥。
この巻では前作REDの前、移民として入国した二人が、新大陸初日に遭遇した出来事が描かれています。

二人が連れて行かれるのが、さる大金持ちのパーティー。彼女は数十年前に移民してきて新大陸に根付いた成功者。語られるファミリーヒストリー。
確かに皆が移民の国では、自分のアイデンティティとしての家族の歴史は、私たちが考える以上に大事なものかも知れません。これから長い長い時間をかけて、ヴィクトリカたちもそれを作っていくことになるのでしょうか!?
今巻では、二人が日本を出て、新大陸にやってきた経緯も語られています。事情が分かってみると、ますます二人を応援したい気持ちになりますね。
このシリーズ、一回完結しているだけに安心して読むことができます。末永く続いて欲しいです。

写真はフォートナム&メイソンのサンドイッチと紅茶です。
(2014年-67冊目)☆

新年

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あけましておめでとうございます

2015年が良い年になりますよう
お祈りいたします



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