◆2016年10月21日
「手のひらの京」(新潮社)
綿矢りさ
京都に旅行すると、いつも気になっていることがありました。
ふと街中で聞こえてくる京都人同士の会話が、テレビや、旅行中に接する宿やお店の人の京言葉と微妙に違うことです。
私たちが知ってる方はもしかしたら「よそ行き」で、京都人だけになると、もっと別の言葉、別の価値観で過ごしてるんじゃないか、と思うようになりました。
私は京都人ではないので確かなことはいえませんが、この本に描かれてる京都は普段着に近い感じがします。
主人公は京都生まれの三人姉妹。長女綾香、次女羽依、三女凜。
彼女らの恋愛・就職問題に、植物園のバラの開花、祇園祭や大文字送り火といった季節の風物詩が織り込まれます。
出版社のコピーには「綿矢版細雪」とありますが、ストーリーといったストーリーもないまま、お話が進んでいくところ、成程似ているかも。
「京都人はほとんどの用事を市内で済ませてしまうので、隣の県でも遠出と感じる」とか、「祇園祭に誰と行くか7月初めごろから当たりを付けていて、一緒に行く人がいない人は大人しく家に引きこもる」とか、京都人の習性がさりげなく挟み込まれます。
凜が就職先として東京の会社を選択。京都を離れることに反対する家族に、その理由を明かす凜。
「内へ内へとパワーが向かっていって、盆地に住んでる人たちをやさしいバリアで覆って離さない気がしてるねん」
「ちょっと出て行けても『そろそろ帰ってき』っていうメッセージを乗せた不思議な優しい風が京都方面から吹いてきて、ハッと気が付いたら舞い戻ってる予感がする」(作中より)
強力な磁力で人を離さない土地への思いは、ほとんど信仰的といっていいような気がします。
単なる郷土愛だけでない、昔からつながってきたもの。それは、私たち通りすがりの観光客が感じる日本情緒とは、また違うものだと思います。
(2016年47冊目)☆☆