千両過眼

東京在住の会社員です。読書、舞台、展覧会の感想などを書いています。

2019年04月

「尾形光琳の燕子花図」

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◯2019年4月29日
「尾形光琳の燕子花図  寿ぎの江戸絵画」(根津美術館)

この時期になると、毎年根津美術館の燕子花の開花状況が気になります。天気との兼ね合いもあり、一番見頃の時に行きたいので。
燕子花図屏風とともにほんものの燕子花の群生が見られるというのは、都市の財産なのではないでしょうか。

連休の美術館は、これまでに見たこともないほど混雑していました。帰るときなんてエントランスの角のところまで並んでましたから。
展示で面白かったのは、まず光琳の父、尾形宗謙の新古今和歌集抄。肥瘦の大きいメリハリのある字で慈円や人麿の歌が書き付けられています。スタイルは光悦の書を思わせますが、より王朝風な感じがして心惹かれます。

江戸時代の伊勢参りを描いた「伊勢参宮図」は最近、根津美術館が修理をしたところ、名古屋市博物館のものと対であることがわかったそうです。二つが並べて展示されています。伊勢に行ったことがないので、ピンとこないのが残念ですが、名所図絵的なものなのでしょうね。
もう一つ、伊勢参りの道中を描いた屏風もありました。
一方、江戸時代の洛中洛外図屏風。大仏殿や二条城天守が描かれています。視点を京都の南側に置き、東側を右隻、西側を左隻。おそらく向かい合わせて置くタイプの屏風だったのではないでしょうか。

「燕子花図屏風」は毎年見ていますが、時代による傷みが気になります(数年前にかなり時間をかけて修理をしていたので、修復するタイプの傷みではなく、経年的なものと思います)。描かれた当時は金箔がもっと輝いていたのでしょう。どのような伝来なのか私に知識はありませんが、大きく描かれた燕子花がこれでもかと迫ってくるようで、これを主人に見せられた客は現実から離れて、燕子花の群生の中にいるような心地になったのではないでしょうか。
庭園の燕子花の方はまだ満開とはいきませんでしたがやはり綺麗で、見られてよかったと思いました。去年は藤は終わっていましたが、今年は咲きそろいつつありました。

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宝塚花組「KASANOVA」

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●2019年4月27日
宝塚花組公演
祝祭喜歌劇「CASANOVA」(東京宝塚劇場)
出演:明日海りお 仙名彩世 柚香光 花野じゅりあ  瀬戸かずや 鳳月杏 桜咲彩花 水美舞斗

18世紀のベネチア。稀代のプレイボーイとして名を馳せたジャコモ・カサノヴァを主人公にしたお話。
多くの女性をとりこにし、あげくの果て投獄されてしまうカサノヴァ。しかし「鉛屋根の監獄」と呼ばれる監獄から脱獄し、逃亡する途中、ヴェネチア総督の姪ベアトリーチェと知り合い、恋におちてしまいます(もちろん、名前を隠して)。

プレイボーイでありながら、別れた女性から恨まれることもなかったといいますから、カサノヴァはよほどの恋愛上手だったのだと思いますが、明日海りおはその雰囲気をうまく出しています。
育ちの良さや他人への思いやりの深さ、そして爽やかな愛嬌。そして「人は自由である。しかし、自分が自由だと信じていないなら、もはや自由ではない」の言葉通りの自由さ。こういうものをちゃんと感じさせるんですよね。
もちろんベースには、彼女独特の華やかさ、キラキラ感があってこそのことなのですが。
これに対し審問官コンデュルメルを演じる柚香光は、悪役の魅力で迫ってきます。へたに掘り下げると半端になってしまうところ、きっぱり割り切った強面の演技でいいと思います。明日海の真紅の衣装に対し、黒の衣装がこれまた、すごく似合って悪役ぽい(笑)。二人の対照的な持ち味が際立って、いい芝居になったのでは。
トップ娘役、仙名彩世のベアトリーチェは、悩みながらも意志的に未来を選び取っていく役で、こういう役は彼女に合っていると思います。カサノヴァと知らずに馬車に相乗りするところ、また結婚を言い出すところは面白くて、観客を笑わせる芝居もさすがです。今公演で彼女は退団ですが、最後に彼女らしい役に巡り会ったのではないでしょうか。

お話はカサノヴァを追いかけるコンデュルメルのヴェネチア支配の陰謀が明らかになり、黒魔術に傾倒するコンデュルメル夫人やベアトリーチェと結婚しようともくろむ商人コンスタンティーノが巻き込んで展開していきます。
コンデュルメル夫人を鳳月杏、コンスタンティーノを瀬戸かずやが演じていて、この辺は花組の層の厚さを感じさせます。また水美舞斗も、不良神父のパルビを演じて、むしろ優しげな人に見えるのがいいと思いました。
結婚すべき義務と、自由の間で思い悩むベアトリーチェが、正体を隠したカサノヴァとゴンドラで言葉を交わすシーンは素敵です。「一番嫌いな人を好きになってしまった」みたいなベアトリーチェの台詞が印象的でした。
後半は登場人物同士の思いがぶつかって展開して話が流れていき、しかも最後は天からの助けによる大団円(宝塚にはよくあるパターンですが笑)のハッピーエンドで、観た後も爽やかな気持ちになりました。

ショー部分、芝居からそのままロケットに移行していく演出。このあとくる柚香光と仙名彩世のダンスがとてもよかったです。この時の柚香の表情が素敵で、感動してしまいました。
女役、男役のダンス。そしてトップ同士のデュエットダンス。卒業する仙名と送り出す明日海、二人の気持ちが伝わってくるようで、観ているこちらも万感胸に迫る思いがしました。

ミュージカル「キャッツ」

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●2019年4月24日
ミュージカル「キャッツ」(大井町キャッツシアター)
出演:織笠里佳子 奥平光紀 安宅小百合 山中由貴 円野つくし 金友美 三代川柚姫 杉野早季 町真理子 引木愛 藤岡あや 橋本聖地 藤田光之 北村優 上川一哉 桒原駿 斎藤洋一郎 村田晃一 押田柊 分部惇平 河津修一 高野佳基 文永傑 岩崎晋也

久し振りに「キャッツ」を観に行きました。
観る前は、なんか今の曲アレンジ慣れないんだよなあとか、ランパスキャットのくだりはやっぱり無い方がいいんじゃないかとか、新演出の不満ばかりが頭に浮かんでたのですが、いざ観てみると曲も全然気にならないし、ランパスもこれはこれで面白いなとか、全然真逆の感想になっていることに自分でも驚きました。
何より、表面は多少変わってもキャッツはやはりキャッツで、目の前にすると心の奥底に響いてくるんですよね。作品の力だなあと思います。

この日は客席に修学旅行生が入ってて、目チカのところで早くも悲鳴が上がって騒然となり、面白かったです。こういうの役者も燃えるんじゃないかなあ。
この日のキャストはグリザベラが私は久々の織笠里佳子さん。タンブルも横浜以来かな、岩崎さん。初見は奥平ジェリロ、円野ディミ、安宅ジェニエニ、引木ヴィク、上川タガー、斎藤マンゴ、分部カーバ、河津カーバ。前回カーバだった桒原さんはミストで、これも私は初見でした。
斎藤洋一郎さんはどちらかというとスキンブルキャラだと思ってましたが、マンゴが驚くほど似合ってました。この人はほんと役によって雰囲気を変えてきますが、マンゴ役では目付き悪くて小悪党な感じで笑。私も睨まれました。
上川さんのタガー。タガー役って私は阿久津さんや田邊さんのようなクールな感じの印象ですが、上川さんは他の役そのままの熱さを(暑さを?)秘めた感じなんですよね。この辺り役者の個性が出ていて面白いと思いました。
リーダー感がさらに増してきた北村マンカス。それから町真理子ジェミマ、山中ランペ、三代川バブ、本当にはまり役な感じです。引木愛さんもとても綺麗なヴィクトリアでした。
織笠グリザは、ここのところずっと登板していた江畑さんのようにパワフルではなく、むしろ弱々しく入る感じですが、歌のサビのところでは絶唱という感じで心打たれました。こういうメリハリはさすがベテランの味だと思わされました。
随所にキリスト教的なモチーフを感じさせるキャッツですが、グリザベラが新しい生命を得るために天上に昇っていく、というのはそのクライマックスともいうべきところで、そのイメージがすっと胸に入ってきて感動します。

この日の握手は杉野タント。この日の観劇で、やっぱり私はキャッツが好きだと改めて思いました。この日はCDの発売日で、売店で購入できたのもよかったです。

「四月大歌舞伎」

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●2019年4月23日
「四月大歌舞伎」(歌舞伎座)夜の部

仁左衛門さんの実盛を観ようと思って、歌舞伎座に行きました。
歌舞伎座はほんと舞台が観辛い劇場ですが、この日は一階通路後ろの席だったので観やすかったです。

その実盛物語。木曽先生義賢の身重の妻、葵御前を詮議するため、斎藤実盛と瀬尾十郎(歌六)が訪ねてくるところから物語は始まります。
源氏の白旗を掴んだ腕とか、その持ち主である小万(孝太郎)が束の間生き返るとか、実盛はいいとしても敵役と思った瀬尾のモドリとか、こんがらかった話。しかも前段の「義賢最期」から続いてる話なので、ここだけ観ても本当分かりにくい。
それでも、実盛の義理に厚い感じや、小万の子   太郎吉(寺嶋眞秀)をちゃんと一人前に扱うところなどはやはり格好良くて、仁左衛門さんぴったりだなあと思ったことでした。

ついで黒塚。安達ヶ原の鬼女の話です。
阿闍梨祐慶(錦之助)と大和坊(種之助)、讃岐坊(鷹之助)らの一行が宿を求めた老婆岩手(猿之助)は実は鬼女で…。謡曲をもとにしながら近代的な解釈も見え、猿之助も古典的幽玄さを表に出しつつ心理劇として組み立てているようです。
花道での仏倒れとか、そのあと起き上がるところ、祐慶との戦いは緊張感がありました。

最後は二人夕霧。
傾城買いの指南をしている伊左衛門(鴈治郎)の元に死んだはずの「先の夕霧」(魁春)が現れて、「後の夕霧」(孝太郎)と争う話。愛人同士の喧嘩です。
これも妙なお話ですが、廓文章「吉田屋」の後日譚として書かれたそうです。
正直私にはこの面白さがよくわからず…。鴈治郎ののんびり、はんなりした感じだけは伝わってきますが。
最後は大団円。ほかに彌十郎さんや東蔵さん、團蔵さんらも出演しています。

「ギュスターブ・モロー展」

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○2019年4月20日
「ギュスターブ・モロー展 サロメと宿命の女たち」(パナソニック汐留美術館)

ギュスターブ・モロー展。街角でポスターをみて、ぜひ見に行きたいと思っていました。

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サロメを始めとしたファム・ファタルを主題にした絵が中心の展覧会なのですが、はじめにモローの母親ポーリーヌと恋人アレクサンドリーヌに関する資料が展示されています。モローの彼女たちに対する真摯な態度が伝わりました。
作品は、「出現」始めいろんなサロメの絵とファム・ファタルにスペースが割かれています。セイレーンなどはちょっと怖い絵です。

純潔性を象徴する一角獣の絵、そして聖母マリア。ファム・ファタルと正反対にも思えるこれらが同一線上にあるのがモローの面白いところで、女性性による無意識の誘惑、罪というのが矛盾なく収まっているようで興味深いです。

「国宝東寺  空海と仏像曼荼羅」

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○2019年4月14日
「国宝東寺ー空海と仏像曼荼羅」(東京国立博物館)

東博に東寺展を見に行きました。
まず後七日御修法。空海が宮中で始め、現在も正月に東寺で行われている儀式の修法壇が再現展示されています。
壁には五代尊像。空海が恵果から与えられたという五鈷杵や五鈷鈴も。
もちろん、部外者にはその意味は理解できませんが、興味深く見ました。

教科書にも載っている風信帖。最長に宛てた空海の書状を貼り付いだものです。三教指帰などともまた違う空海の書で、とても美しいものでした。
中程には両界曼荼羅の展示。映像で胎蔵界曼荼羅の説明がありました。

今展で話題なのが、東寺講堂の立体曼荼羅を再現した展示。空海が経典をもとに考案したそうで、今回21体のうち15体が出張してくださいました。
美しい金剛法菩薩、金剛宝菩薩などの菩薩像。迫力満点の増長天、持国天などの四天王像、五大明王像。多くがいかにも平安時代の仏像という感じです。創建当時の仏像とこうして対面できるのはすごいことです。
帝釈天騎象像は写真撮影可で、大勢に取り囲まれて撮影会のようになっていました。私ももちろん撮らせて頂きました。
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