千両過眼

東京在住の会社員です。読書、舞台、展覧会の感想などを書いています。

2020年02月

「RED&BEAR クィーンサンシャイン号殺人事件」

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●2020年2月1日
「RED&BEAR クィーンサンシャイン号殺人事件」(サンシャイン劇場)
出演:七海ひろき、佐奈宏紀、近藤頌利、遊馬晃祐、正木郁、三原大樹、堀田優希、柴小聖、後藤夕貴、新田恵海、西岡徳馬

七海ひろきさんの宝塚卒業後の初舞台です。
脚本は、こちらも宝塚退団後、多才に活躍中の天真みちるさんの初ミュージカル脚本。

お話は、豪華客船クイーンサンシャイン号に乗り合わせた探偵REDと熊田刑事、通称BEARが協力して殺人事件を解決していくというもの。プロモーションクルーズのために乗船していたバンドグループのメンバー間の確執が描かれます。
頭脳派探偵役の七海さんは見せ方を心得ていて格好いいです。BEAR役の西岡徳馬さんがさすがの貫禄。彼がなにか言うたびに、無意識に耳を傾けてしまう。その重み、演技力はすごいです。それでいて、お茶目な部分もあったりして素敵です。

「数寄のデザイン」「色彩を観る」


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○2020年1月
「数寄のデザイン」「色彩を観る」(サンリツ服部美術館)

諏訪湖に行った時に、楽しみにしていたサンリツ服部美術館を訪問しました。
服部SEIKO創業家とサンリツゆかりの美術館で、日本美術と西洋絵画を蒐集展示しています。
雪がちらついている日。湖畔の美術館は抜群のロケーションです。

ちょうど光悦の赤楽茶碗「障子」を展示していました。
銘からもわかる通り、明かりを背にすると向こう側が透けて見える茶碗。透明釉がかかっているのでお茶は漏れないそうです。
ルドンの静物画「二つの林檎」。色の違う林檎が二つ、落ち着いた色調で描かれています。
ふつう西洋画の生物というと花とか食器とかいろいろ描きこむものですが、林檎の他には何も描かれず、不思議な雰囲気です。
さすがルドン、静物画でも一筋縄ではいかないです。

この美術館には茶道具などのほか、佐竹本三十六歌仙絵、上畳本三十六歌仙絵両方の大中臣能宣を所蔵しています。図像的にはほぼ同じポーズをとっているのが興味深いです。この時は展示はありませんでしたが、絵葉書が買えてよかったです。

開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」

○2020年1月26日
開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」(アーティゾン美術館)

前身のブリヂストン美術館が閉館して数年、アーティゾン美術館として新装オープンしました。
かつてのブリヂストン美術館は古き良き美術館という雰囲気でしたが、アーティゾン美術館は良くも悪くも21世紀の美術館という感じです。
絵を展示する空間にしても、展示室の中にいくつも壁があって、順路が書いていなければ迷子になりそうです。突然、壁の陰から人が出てきたりして驚くこともしばしば。
ネットの時間予約も初めてだったし、今回の展覧会では内外の画家が混じって展示されているのにも戸惑いました。
展示物はすべて撮影可能なのは嬉しいです。

どちらかというと戸惑いのほうが多い中で、ブリヂストン美術館時代からよく知っている絵が展示されているのには癒されました。
ルオーのキリストの絵、ピカソのサルタンバンク、ルノワールのシャルパンティエ嬢、セザンヌのサントヴィクトワール山、青木繁の「わだつみのいろこのみや」、藤島武二「天平の面影」、ヴァンドンゲンの「シャンゼリゼ大通り」など懐かしかったです。
一方で、クレー、ポロック、モンドリアン、その他、東西の抽象絵画のコレクションに力を入れているのがうかがえました。

「ハマスホイとデンマーク絵画」

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○2020年2月5日
「ハマスホイとデンマーク絵画」(東京都美術館)

大人気の展覧会です。
他の方の感想を見ると、特にハマスホイの絵が素晴らしいという意見が大勢を占めているようです。でもへそ曲がりな私は、ハマスホイの絵になんとも言えない寂しさや不安感、ある種の近寄りがたさを感じました。
その理由は、絵に「温度」が感じられないのが大きいと思います。無駄なものがないガランとした室内。顔の見えない人物。モノトーンに近い色合い。古い写真を見ているような別世界感。
確かに他のどの画家とも違っていて、そこはこの画家の素晴らしいところだと思うのですが、そこは好き嫌いでしょうか。

対して、デンマーク絵画そのものは、私の好みの絵が多かったです。
デンマーク語で「ヒュッゲ」は「居心地いい」という意味だそうです。なるほど、ヒュッゲね。家庭の中の一コマや、人の営みに向ける眼差し。
そしてスケーイン派と呼ばれる人たちの絵。明暗対比や印象派のような筆致で描かれる自然や労働の絵。小さなコミュニティから感じられる親密さ。これらにとても惹かれました。

「大名倒産 上下」

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◆2020年2月
「大名倒産 上下」(文藝春秋)
浅田次郎

足軽の子として育てられた小四郎は、兄弟たちが夭折したり病弱だったりうつけだったりしたために、突然、越後丹生山三万石の松平和泉守家を継ぐことに。
しかしお家は長い間に気の遠くなるような借金地獄に陥っており、しかもあろうことか先代は密かに小四郎の代でお家の倒産を目論んでいるという始末。

お家を潰さぬために努力を惜しまない小四郎に家中の者や領民たちはもちろん、老中や他の大名までもが肩入れをします。
特に小四郎の兄の婚姻相手である旗本、小池越中守の単純だが真心あふれる行動には、大笑いしながらも感動。
こういうところ、やっぱり泣ける浅田節なのでした。

徳川の太平の世が、構造的矛盾を孕みながらも250年続き、もう意味もわからない繁文縟礼や儀礼、体面ばかりが重要視されていた時代。そんな時代にあって、本来武士のあるべき姿、真心のあり方というものを、小四郎は周りに思い起こさせたのではないでしょうか。
作中描かれる越後丹生山の美しい風物や人と人との触れ合いともあいまって、日本の風土や精神の美しさが描かれていて、心地よく胸に残りました。

「狩野派 画壇を制した眼と手」

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○2020年2月19日
「狩野派 画壇を制した眼と手」(出光美術館)

狩野尚信の小督・子猷訪戴図が、漢画と大和絵を融合しながら、とても情趣深く描いていて、巧さに唸らされます。
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この展覧会で目につくのは歴代の江戸狩野家当主たちが発行した外題や添状(古画の鑑定書)の数々。

狩野派当主たちは美術界の権威として、さまさまなところから持ち込まれる美術品の真贋や作者を鑑定して、これを手控えとして残していたというのです。これを模写することで画技の幅を広げ、狩野派の絵に取り込んでいったのだと思われます。
今展には永徳や元信の作品こそありませんが、これまでにない切り口で面白いと思いました。

今展では、現在長谷川等伯作とされている「竹虎図屏風」を伝周文作としています。
この前ここの展覧会でそのことを読んだばかりだと思ったら、ちゃんと但し書きしてありました。
かの狩野探幽がこの絵を鑑定して周文作としたというのです。そればかりか、屏風に直接それを極書し、さらに傷んだ部分に加筆までしています。
等伯はもちろん、探幽の祖父永徳の最大のライバル。この屏風を等伯のものと看破したのか、それとも本当に周文作と見たのか、真相は分かりませんが、結果、仇敵の名を消し去ることに成功していますね。
もっとも、等伯はもともと雪舟に私淑して自らを雪舟五代と名乗っていたぐらいで、後世の骨董屋が等伯の落款を削り取って雪舟作として扱っていた例もあったりするので、このようなことはたびたびあったのかも知れません。それも等伯の画技の広さを表しているともいえるのかも。

「画家が見たこども展」

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○2020年2月21日
開館10周年記念
「画家が見たこども展」(三菱一号館美術館)

三菱一号館美術館の夜間開館に行きました。
ここは夜に行くと空いてるし、雰囲気もよくて好きです。

子供を描いた絵の展覧会です。
ゴッホ、ゴーギャン、ルノワールらの絵がまずあって、途中からはゴーギャンの影響を受けたナビ派の画家の絵になっています。
かつて日本では子供を「半人前の労働者」とみなして、食い扶持に見合う補助労働や子守りをさせていたと本で読んだことがありましたが、今展のガイドに、西洋でも子供は伝統的に「不完全な大人」とみなされ、18世紀以降ようやく「独立した個性を持つ人格」と捉えられるようになったとありました。
19世紀末以降のナビ派の画家たちは「近代生活の総合的な体験者」として、子供のさまざまな側面を捉え、描くようになったということです。

今展はボナール展では?と思うほど、ボナール作品が多く展示されています。よく見るとボナール美術館と三菱一号館の共同制作なのですよね。
ボナール作品は好きな作品がある一方、濃厚すぎてどこに鑑賞の焦点を当てていいか分からない作品がありますが、今展ではリトグラフなども多いし、猫と子供を描いた作品もあり楽しめました。
晩年の作品は子供の描いた絵にも似て、文字通り「童心に戻った」のだろうかと不思議に思いました。

私はドニの作品のいくつかに心惹かれました。
聖書のくだりがそのまま題名になっている「私のところに来るままに」を始めとして、母と幼子を聖母子になぞらえた作品もあって、子供の存在を聖なるものと捉えています。
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点描風の「赤いエプロンドレスを着た子ども」や「サクランボを持つノエルの肖像」などの作品からは、子供という存在への愛情が伝わってくるようです。
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