◆2015年9月19日
「無理 上・下」(文春文庫)
奥田英朗
街のショッピングモールにある観覧車も停止したままの地方都市。曇天が垂れ込めたようなこの街に暮らす人々。
悪質訪問販売、生活保護費の不正受給、家庭内暴力、ブラック企業…。昨今の新聞を賑わせているような問題が次から次に出てきます。そういう意味では、小説であるにも関わらず、社会の断面を切り取っているともいえます。
もちろんそれだけでは終わらず、一人一人の個人的物語が鋭く掘り下げられているのが見どころ。
たとえば親の地盤を引き継いだ市会議員。土木工事絡みで欲を出したばかりに、にっちもさっちもいかなくなる様子が、妙なリアリティがありました。
最初ばらばらだった物語が一つに収斂していくところは伊坂幸太郎の作品に似てなくもありません。但し、そのリアル感、俗っぽい生々しさは、どこか現実感の薄い伊坂作品と対照的。
人間の底知れない欲望や、そこにはまり込んで身動きもならなくなった状態、さらに金銭をめぐる極限状態。こういうものを描くのが、この著者は本当に上手いです。登場人物達のすさまじい「無理」さ加減に圧倒されました。
(2015年-35,36冊目)☆☆