◆2016年6月25日
「旅のラゴス」(新潮文庫)
筒井康隆
人生は旅にたとえられることが多いけれど、これは旅によって人間の一生を描いた小説。
都市国家と、砂丘や山岳に覆われた集落が散らばる古代史的世界。かつて宇宙からやってきた祖先が文明を失った代わりに、子孫は空間移動、感応、予知などの特殊能力を得ています。
こういうの、マジックリアリズムって言うんですっけ。
この世界を旅する主人公ラゴス。「旅をすることがおれの人生に与えられた役目なんだ」
ラゴスの行く手にはさまざまな出来事が起こります。
なかでも、祖先の残した書物を15年かかって読みふけるうちに、いつの間にか王にされてしまう「王国への道」。
たとえば、21世紀の私達の文明がまだ電気もない、科学も社会学も哲学も未発達の星にいきなり伝えられたらどうか。人類の歴史は順を追って進んでいくべきで、急激な変化は「便利」を通り越して、破滅をもたらしてしまうのではないか。
注意深く取捨選択をする一方で、瑣事に煩わされる日々。
結局、彼の旅とは何だったのか。
時間は過ぎ行き、人間は一つところに留まることはできない。だとすれば、人間はどこから来てどこに行くのか。
宗教という概念がなさそうなこの世界で、彼の目的地はどこなのだろうか。
以前から読みたかった本なので、読めて良かったです。
(2016年-32冊目)☆☆☆