千両過眼

東京在住の会社員です。読書、舞台、展覧会の感想などを書いています。

筒井康隆

「旅のラゴス」

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◆2016年6月25日
「旅のラゴス」(新潮文庫)
筒井康隆

人生は旅にたとえられることが多いけれど、これは旅によって人間の一生を描いた小説。
都市国家と、砂丘や山岳に覆われた集落が散らばる古代史的世界。かつて宇宙からやってきた祖先が文明を失った代わりに、子孫は空間移動、感応、予知などの特殊能力を得ています。
こういうの、マジックリアリズムって言うんですっけ。
この世界を旅する主人公ラゴス。「旅をすることがおれの人生に与えられた役目なんだ」

ラゴスの行く手にはさまざまな出来事が起こります。
なかでも、祖先の残した書物を15年かかって読みふけるうちに、いつの間にか王にされてしまう「王国への道」。
たとえば、21世紀の私達の文明がまだ電気もない、科学も社会学も哲学も未発達の星にいきなり伝えられたらどうか。人類の歴史は順を追って進んでいくべきで、急激な変化は「便利」を通り越して、破滅をもたらしてしまうのではないか。
注意深く取捨選択をする一方で、瑣事に煩わされる日々。

結局、彼の旅とは何だったのか。
時間は過ぎ行き、人間は一つところに留まることはできない。だとすれば、人間はどこから来てどこに行くのか。
宗教という概念がなさそうなこの世界で、彼の目的地はどこなのだろうか。
以前から読みたかった本なので、読めて良かったです。
(2016年-32冊目)☆☆☆

「モナドの領域」

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◆2015年12月25日
「モナドの領域」(新潮社)
筒井康隆

美大生アルバイトが作った奇怪な形のパン。ある事件との関連を調べるためにベーカリーに向かう上代警部。
この辺り、シュールレアリスム的。ここで警部が常連客である老教授を目にしたところから、急展開に。

筒井康隆の新刊は、これまでに読んだことがないような小説でした。
GODと名乗る謎の人物(?)が登場し、公園で、裁判で、テレビの番組でいろんな質問に答える、その問答が話の核になっています。
GODは宗教上の神ではなく、モナドを司る存在。モナドとは、予定運命、みたいなものでしょうか(正確に理解できてないかも知れませんが)。

にも関わらず、小説として面白かったのはGODに向けられる人間の感情の部分です。こういう存在と出会ったとき、人はどうするのか?
「時をかける少女」のイメージが投影された場面があり、印象的でした。
(2015年51冊目)

「繁栄の昭和」

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◆2014年11月22日
「繁栄の昭和」(文藝春秋)
筒井康隆

昭和のある時期や、同時代の探偵小説などへのオマージュ的短編集。
とはいってもそれだけではなく、現在未来につながるいろんな仕掛けが施してあります。

表題作は、探偵小説ファンの主人公が殺人事件に遭遇、推理するうちにある事実に辿り着く、という話。この話で主人公は昭和40年代を生きている筈なのに、彼の勤めるビルは大正モダニズム風、喫茶店で聞こえる歌は昔の歌謡曲。
文体や内容が妙に古めかしい感じがするのは、単に擬古的なテクニックだと思っていたら…。
紙の上だけで展開していると思った物語が、急に生々しく迫ってきます。

役割を規定されたSF的社会を描いた短編「役割演技」で、老作家が話す言葉。
「あらゆる小説を書いてあらゆることを書き尽そうとするんです。(中略)何を書こうが基本は現実のこの世界を表現することになるんだからと思ってね。だけどそれは間違っているのかも」
では、私たちの生きているこの世界は何だろう。足元の揺らぐ感じがします。

私が一番ウケたのは「リア王」です。
古典劇の路線に固執する老俳優が「リア王」を演じている最中に、会場で鳴った着信音を聞いて、とっさにある行動をとってしまいます。それが大反響を呼んでしまい…。
劇団の性格が次第に変貌していくのが、実在の某劇団を思い起こさせて、ツボでした。
(2014年-61冊目)☆
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