千両過眼

東京在住の会社員です。読書、舞台、展覧会の感想などを書いています。

畠中恵

「アイスクリン強し」


◆2013年1月3日
「アイスクリン強し」(講談社文庫)
畠中恵
 
設定はいかにも自分好みなんだけれど、読んだら今一つ合わなかったなーという作品でした。
舞台は、徳川から明治の世になって二十数年が過ぎ、ようやく落ち着き始めた帝都・東京。築地の居留地育ちの若者・真次郎は、東京でもまだ珍しい西洋菓子店を開き、奮闘する毎日。元旗本の跡取りである親友の長瀬ら、維新で職をあぶれて警視庁の巡査になった“若様組”の面々とともに、巷の事件を解決していきます。
 
単なる政権交代と違い、それまでの価値観が根こそぎ転換した明治維新という出来事。文明開化の陰で旧支配層である士族の没落、実業家や維新成金の台頭、貧富差の拡大…。それらを庶民の目から見た変化として描いている点が興味深いです。
いつか起こりうる戦に備えて携行のための兵糧パンに適した小麦粉の大量購入を画策したりと、先をにらんだ新商売に抜け目なく目を光らせる商人もいて、時代の転換期というのは本当にこういうものなのかもと思わせます。
お話そのものは、事件が尻切れトンボに終わったり伏線っぽいものが回収されなかったりと、どれも消化不良な内容。とくに冒頭出てきた謎々のような問いを最後の章まで引っ張ったあげく、この落ちはつらいよ、と思いました。
「しゃばけ」であんなに一太郎の食べる和菓子が美味しそうに見えたのに、本作のシユウクリーム、ワッフルス、アイスクリンなどは名前負けで、さほどでもなかったです。残念。
 
これを書いている今日は1月7日。写真は七草粥です。せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七草。植物の古名がそのまま伝わっているのが、ゆかしいです。(2013年-3冊目)

「さくら聖・咲く」


◆2012年12月26日
「さくら聖・咲く」(実業之日本社)
畠中 恵

「しゃばけ」の作者の、現代ものシリーズ2作目です。1作目は読んでいません。
引退した大物政治家・大堂の私設事務所で働いている大学生・佐倉聖の活躍を描くミステリー。まめで料理も上手な聖は、私は速水もこみちのイメージで読みました。
事務所には、勉強会「風神雷神会」の代議士たちやその秘書たちがいろんな問題を持ち込んできて、聖もその始末に奔走する日々。
そんな聖も、将来まともな職に就くべく就職活動を始めることに。しかし、いつの間にか事務所の面々にそれがばれてしまい…。

普段あまり馴染みのない政治の世界が舞台のミステリーということで読んでみたのですが、うーん…という感じです。
誰が誰を紹介したとか、なんかあったときは何時だろうが顔を出さなきゃいけないとか、この世界にいろんな貸し借りや仁義があるのはよく分かりましたが、それ以上には深まらないです。
ましてやユーモア・ミステリーなので、巨悪が暴かれるわけでもなく、どちらかというと「聖くんの政界交友録」といった内容。切れ者のイケメン代議士とか恋愛中毒の美人秘書とか、キャラクターも類型的に思えます。
ひたすらのんびり、まったりしているのが「しゃばけ」の妙味だったのですが、それとは逆の、生き馬の目を抜くような政界の世知辛さに、私はいささか食傷気味でした。

写真は、先日撮った国際宇宙ステーション「きぼう」。見えたのは動く光の点だけだったのですが、ズームインし過ぎで手ぶれして不思議な形に写ってしまいました。すみません、UFOじゃありません!左下のも惑星とかじゃなく、ただのビルの外壁です。(2012年-103冊目)

「やなりいなり」

DSC_0148.jpg◆2012年7月19日
「やなりいなり」(新潮社)
畠中 恵

最近も新作が出た「しゃばけ」のシリーズです。
いつも通り、長崎屋の若旦那・一太郎と周りを取り巻く妖たちの騒動を描く江戸コメディ。
今回とくに印象深かったのは「こいしくて」。どうしてか長崎屋に、疫神や疱瘡神ら、病を司る神が集まってきます。一太郎たちがその理由を調べて解決する話。
この短編を読んで、以前NHKで放送した京都・冷泉家の一年を取材したドキュメンタリー番組を思い出しました。冷泉家はあの俊成や定家の血をひく歌道の家柄で、文化財を多数有するほか、いまも昔の風習を伝えています。
この家で、旧暦の大晦日(いまの節分)に、「歳徳さん」(新年の神)を祭るのですが、座敷の片隅を囲って「疱瘡さん」にも供え物をしていました。
考えてみれば、日本人はこのような疫病をも慰撫しつつ共生してきた民族なのかも知れません。
この短編でも、本来嫌がられるはずの病の神がどこかユーモラスに描かれているところに、その気質が表れているように思います。
本作では各短編の冒頭に料理のレシピが載っています。「みをつくし料理帖」シリーズを筆頭に、江戸グルメ・ブームが始まっているのでしょうか。

写真は、私の好きな京都・俵屋の坪庭。夏のしつらえです。(2012年-65冊目)

「ぬしさまへ」

DSC_0098.jpg◆2012年5月31日
「ぬしさまへ」(新潮文庫)
畠中 恵

「しゃばけ」シリーズの2作目。
表題作は、長崎屋の手代・仁吉(実は妖=あやかし)に付け文してきた女が殺された事件を、若旦那の一太郎が妖達とともに調べ、解決するというもの。一太郎の推理が冴えます。その他、短編全6編。

ところで、このシリーズを読んでると、お菓子が食べたくなります。
なにかというと若旦那の居間の離れに集まり、皆で餅だの饅頭だのを食べお茶を啜って、それがおいしそうなんですね。
時には集まってくる妖達に、気のいい一太郎が菓子を振る舞ったりすることも。このシリーズでは、妖は甘党という設定のようです。

写真は、京都・俵屋旅館のわらびもち。ほどよく冷えて、甘すぎず、ぷるんとした食感も絶品。好きな和菓子のひとつです。(2012年-50冊目)☆

「しゃばけ」

DSC_0106.jpg◆2012年5月24日
「しゃばけ」(新潮文庫)
畠中 恵

「みをつくし料理帖」の影響などもあって、自分の中ではやや“江戸ブーム”なんです。思い付いて「しゃばけ」を初めて読みました。
シリーズ1作目である本作は、薬種屋ばかりが狙われる謎の事件に長崎屋の若旦那・一太郎が巻き込まれてしまう話。
幼いときから体が弱く、病がちの一太郎と、傍らで一太郎をハラハラしながら守っている二人の手代ら、妖(あやかし)たち。彼らのやりとりが、大真面目なのにどこかユーモラスに感じられます。長い年月を過ごした古道具って、なんか個性がありますよね。それと同じで、妖たちもそれぞれ個性的に描かれています。
何かストレスフルなときとか疲れる本を読んだ後とかに読むと、時代物特有の、ゆっくり時間の流れるような感じに癒されそうです。

写真は、京都の老舗旅館・俵屋。古さとモダンさが調和しています。空間のほの暗さも心地よいです。
(2012年-48冊目)☆☆

記事検索
最新コメント
アーカイブ
  • ライブドアブログ