千両過眼

東京在住の会社員です。読書、舞台、展覧会の感想などを書いています。

美術展

「しりとり日本美術」

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〇2023年8月
「しりとり日本美術」(出光美術館)

出光美術館には珍しい、夏休み向けの企画ものという感じです。
ここでいう「しりとり」は、日本美術特有の、継承され共有される図案や意匠、題材、イメージのこと。
日本文化の特徴である「本歌取り」などもここに含まれるのだと思います。

最初のコーナーでは抱一の「風神雷神図屏風」、等伯の「松に鴉・柳に白鷺図屏風」などで、屏風の曲、扇などの解説。
二つものコーナーは「水のかたち」。常信の「波涛水禽図」など。
三つ目のコーナーは勝川春章「美人鑑賞図」に出てくる様々な意匠に共通する意匠の展示。

山本梅逸の「四季花鳥図屏風」が目を引きました。
狩野派などの型にはまった描き方と異なり、鳥たちがいまにも動き出しそうに生き生きとしています。
描き方は写生画ふうで付け立てなども散見し、円山派、四条派ふうなのですが、背景の樹木や植物が過剰なまでに描きこまれていて、それぞれの祖である応挙や呉春の絵とは雰囲気が違います。その違いがかえって面白いと思いました。
他にも梅逸の作品「布曳飛瀑図」があったので、戻って改めて眺めました。こちらは実見した風景を後から描いたもののようで、荒々しく見える筆致がこれも独特です。

「ジョルジュ・ルオー かたち、色、ハーモニー」

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〇2023年6月
「ジョルジュ・ルオー かたち、色、ハーモニー」(パナソニック汐留美術館)

かなり以前にここでルオー展を見た記憶がありますが、本格的な回顧展は初めてなんだそうです。
ルオーは19世紀末から20世紀にかけてフランスで活躍。
師であるモローとの書簡のやりとりや初期のサロン出品作、セザンヌの影響から、のちのステンドグラスの影響と思われる独特な画面構成や、宗教的主題にたどり着くまでの過程が見て取れます。

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とりわけ、ルオーの描くキリストを主題にしたシリーズは、ほかのどの画家のキリスト像とも違う唯一無二のものだと感じます。
彼の描くキリストの表情は、人間存在への愛と憐み、悲しみ、その
罪を一身に背負うものとして、すべての感情を包含しているように思え、それが感動を喚起するのだと思います。
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「大阪の日本画」

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〇2023年5月13日
「大阪の日本画」(東京ステーションギャラリー)

大阪の中之島美術館所蔵作品中心の展覧会です。
なんとなく感覚的にわかるのは、関東と関西では好みや嗜好に違いがあるということ。味覚しかり服装しかり。それと同じように絵画の好みにおいても東京、京都、大阪では違いがあって、異なる発展を遂げたということかと思います。
ことに大阪は商人の町であるゆえ、展覧会芸術に対して、商家の床の間を飾る床の間芸術、船場派(という言葉も初めて知った)が発展したということらしいです。

大阪で活躍した画家たちの絵の中には「悪魔派」と呼ばれた北野恒富や、「三園」の一人島成園が有名ですが、初めて見る作家のも多くあり興味深かったです。
歴史の古い土地であり、ある意味ローカルな発展を遂げただけあり、江戸から続く明治、さらに昭和の初め頃にかけての大阪の文化が強く感じられました。
北野恒富「宝恵籠」や生田花朝「天神祭」、菅楯彦「阪都四つ橋」、池田遥邨「雪の大阪」と、大阪の景観や行事を描いた絵も多かったです。
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吉岡美枝「店頭の初夏」がいかにも関西のモダニズムという感じでした。流行を身にまとい、ショーウィンドウをじっと見つめる女性が描かれています。
出番を待つ文楽の人形を描いた山口草平「人形の楽屋」が、人形だけしかいない薄暗い楽屋を描いていて印象に残りました。

「京都 細見美術館の名品 琳派、若冲、ときめきの日本美術」

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〇2023年5月6日
「開館25周年記念展 京都 細見美術館の名品 琳派、若冲、ときめきの日本美術」(日本橋高島屋)

高島屋は京都との縁が深いだけに、ときどきこのような展覧会をして下さるので好きです。
以前、以前の高島屋の琳派展や、細見美術館に行った時の印象から、今回もほぼ琳派や若冲オンリーと思っていたのですが、仏教美術や墨蹟、中・近世絵画、陶磁器など調度品など盛りだくさんの内容で楽しめました。
一番興味深かったのが江戸前期の男女遊楽図屏風。かの彦根屏風に似ているだけでなく、彦根屏風と同じと思われる登場人物がいること、遊楽図なのに人物たちが楽しそうでないことも共通しています。
どのような経緯で成立したのか興味がわきました。
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琳派では、おなじみの作品が並んでいます。茶道具の展示の中では、反橋と社殿を描く、いわゆる住吉手の志野茶碗「弁慶」が印象的でした。同じ意匠の「橋姫」に比べ半筒形ですが、よく似ています。
売店で雪佳の絵はがきがたくさん買えて嬉しかったです。

もう一つ「知られざる文具アートの世界」も開催していました。
いろんな面白い作品が並んでいる中で、写真と見紛うような色鉛筆画が目を引きました。水の反射や揺らぎ、光沢などがみごとに表現されています。
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「国宝・燕子花図屏風 光琳の生きた時代」

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○2023年5月1日
特別展「国宝・燕子花図屏風 光琳の生きた時代1658-1716」(根津美術館)

毎年恒例の燕子花図屏風中心の展示。
この時期はGWでもあり毎年混雑します。庭園のカキツバタの写真を撮るのにも順番待ちです。

今展は光琳の生きた時代を横軸で切り取って、同時代の画家の作品、そして同時代の流行、風俗を追うもの。
17世紀前半に活躍したと思われる俵屋宗達と、後半以降に活躍した光琳の時代は思ったほど離れていないんだなと思いました。
もちろん、直接この二人の関係はないと思われますが、間をつなぐ作品として、宗達工房を引き継いだと見られる喜多川相説の四季草花図が興味深かったです。
また、同じ時期には江戸で狩野探幽が活躍しており、探幽の寛文期の両帝図屏風、さらに尚信の子常信の瀟湘八景図も展示してありました。

以前の展覧会で、所蔵作品の乾山乃銹絵蘭図角皿の絵付けをした人物、素信=渡辺始興説の解説を読みましたが、そこからさらに敷衍して、光琳の絵画や乾山の陶磁器絵付けに関わった可能性を窺わせました。
草花図屏風は光琳にしては写実的だし、洞庭秋月茶碗は乾山の文人的自由さよりも本職の絵師の技術を感じさせるというわけです。
渡辺始興は光琳晩年の弟子だっただけではなく、江戸狩野派や大和絵の画風も習得して使い分けをしており、非常に器用な人だったと思われます。
始興は、狩野尚信を激賞している近衛家熙に仕えており、また応挙にも始興の影響が見られるということで、琳派、狩野派、さらに応挙に始まる円山派の、交差するピースの一つというのが定説になる日が来るのかも知れません。
このような美術史的な面白さを感じさせる展覧会でした。


「江戸絵画の華 第1部」

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〇2023年1月
「江戸絵画の華 第1部」(出光美術館)

出光美術館の「江戸絵画の華」に行きました。
プライス・コレクションを出光美術館が購入して以降、延び延びになっていましたが、ようやくの公開です。
出光佐千子館長が以前、講演で「祖父(出光佐三氏)はこれでもかというような作品は嫌いで、仙厓等のアマチュアリズムを愛したので、若冲、蕭白らの奇想派や、永徳など狩野派のアカデミックな作品は所有していない」と語っておられたので、正直、出光がプライス・コレクションを購入したと聞いたときは驚きました。
同時に私も、なんとなくこの美術館の蒐集傾向、仙厓や絵唐津などの陶磁器、文人画やルオー作品など・・・にシンパシーを感じていたので、もしや今後、出光美術館は人気作品を集めたメジャー路線に転換するのか、と勝手ながら密かに心配をしたところでもありました。
今回、出光館長が今展図録冒頭に書かれていた学生時代、プライス氏の自宅で作品を学び、研鑽を深められた思い出を書かれていたのを読んで、購入の意味についてなるほどと納得しました。

さて実際に作品を拝見してみると、プライス・コレクションの質の高さに改めて圧倒されました。
冒頭の中住道雲「松竹梅群鳥図」、狩野立信ほか「十二か月花鳥図押絵貼屏風」、水上景邨「牡丹に唐獅子図」等に見入りました。
若冲の「鳥獣花木図」は好き嫌いは別にしてやはり唯一無二。枡目描きでタイル画のように1マスずつ描かれていてある種のマニアックさを感じます。枡目に沿って角角に描かれているところとそうでないところがあります。この絵は仏画ともいわれているようで、なるほど何かの楽園を描いているようにも涅槃図のようにも見えます。
若冲はほかにも何点もあって、鶴や鶏の絵が面白いです。筆の太い線に合わせて細部を描いていったり、その勢いや細密さは鶴亭の絵も思い起こさせます。

後半は「浮世と物語」と題した、浮世絵と大和絵を中心とした物語絵の展示。
目を引くのは磯田湖龍斎「雪中美人図」。繊細極まる肉筆美人画。雪と着物の白からのぞく紅色が映えます。勝川春章「二美人図」は出光美術館蔵の春章画とも呼応します。
私がとてもいいなと思ったのが吉川霊華「ゆくみづに」。伊勢物語50段を題材にしており、帰宅後に早速該当箇所を読んでみました。この画家は書家でもあるだけに書画一体で美しく、ろうそくの小さな灯りで読むとさらに映えるのではないでしょうか。伊勢物語を題材にしたほかの作品も見たいと思いました。

今回のプライスコレクションの展示、当初の予想に反し若冲作品と出光美術館の取り合わせが違和感がないと感じました。
出光館長が「出光コレクションとプライスコレクションが響き合う」と書かれていましたが、佐三氏が愛したアマチュアリズムと若冲らの作品は意外に遠くないところにいるのかも知れません。今後、第2部をはじめ、プライスコレクションの全貌が見られることを楽しみにしています。

「神坂雪佳 つながる琳派スピリット」

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〇2022年12月16日
「神坂雪佳 つながる琳派スピリット」(パナソニック汐留美術館)

細見美術館で以前に見たような展覧会かと思っていましたが、初めて見る作品が多くてうれしかったです。
絵や図案集だけでなく漆器や陶器、調度品のデザインなど多才な人だったことがよくわかります。
「百々世草」はどのページも楽しくて見飽きません。
今展は「つながる琳派スピリット」という副題がついていますが、琳派の意識の継承のあり方のようなものを感じることが出来ます。
宗達にはじまり、光琳・乾山、深江芦舟や渡辺始興、芳中、抱一・其一らの江戸琳派と、それぞれの志向性はありながら、写実とは異なるものを目指した琳派の流れが、雪佳に至ってやまと絵の一形態から「図案=デザイン」という形に落ち着いたのだと見ることもできるのではないでしょうか。

「京都・智積院の名宝」

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〇2022年12月・1月
「京都・智積院の名宝」(サントリー美術館)

京都に行くときにいつも近くを通るにもかかわらず、私は境内に入ったことはありません。
なので東博の特別展などでの展示以外で、長谷川派の障壁画群を初めて見ました。
今回、等伯の「楓図」「松に秋草図」「松に黄蜀葵図」、息子久蔵の「桜図」、長谷川派の「雪松図」が展示されています。

等伯というと、狩野派との桃山期の京都を舞台にした勢力争いを思い浮かべます。
自然、狩野派とくに永徳との比較をしてしまうし、東博の特別展などでも両者を並べた展示が多いようです。
改めて等伯の「楓図」を見ると、永徳が始めたと言われる大画様式をとる一方で、狩野派とは異なるところが見て取れます。
構図は前景中景遠景の意識がはっきりしている狩野派と比べ、平面的です。全体を金雲が覆いますが、雲と楓の木のレイヤーもまちまちで、背景の金地との区別も判然としません。(もっともよく見ると金雲には金泥と思われる縁取りがなされているようです)
平面的というと、久蔵の「桜図」も同様ですが、桜の花だけは胡粉を塗り重ねて厚みを出しており、ここだけ立体に強調されている印象があります。
「楓図」の葉の彩色は秋の楓というと紅葉まっさかりの紅色を思い浮かべますが、赤や黄色、緑の中間色で描かれていて、考えようによってはなぜこの季節の楓なのか?という疑問を持ちます。
桜と紅葉の「雲錦模様」がこの時代にすでにあったかどうかはわかりませんが、もともとこの障壁画が智積院の前身、祥雲寺に描かれたのが秀吉の長男鶴松の菩提を弔うためだったことを考えると、華やかに爛熟した紅葉よりも、秋の初めのかそけきほどの色付きにとどめた理由もわかる気がします。
「楓図」も「桜図」も、全体として狩野派と同じような画面構成をとりながら、大和絵風の穏やかな作風で、このあたりが永徳と大きく印象が違う部分と思われます。
等伯は息子久蔵を亡くした後、晩年に「松林図屏風」の境地に至りますが、等伯の画風の変遷を考えるとき、時々の彼の意識が作品に投影されている気がして、いっそう見る者の胸を打つのではないでしょうか。

これ以外では、堂本印象作「婦女喫茶図」「松桜柳図」が印象深かったです。等伯一門の作品へのオマージュでもあるのでしょう。抽象的表現で等伯作品を再構成しているようです。
土田麦僊は智積院ゆかりの画家ということで「朝顔図」が展示されています。
最後のコーナーで徳川綱吉の「蓮舟観音図」がありました。いつぞや見た徳川家光の絵と違い、いかにも狩野派風の観音図で、真面目で几帳面な性格をうかがわせました。

「将軍家の襖絵」

〇2022年11月27日
特別展「将軍家の襖絵 屏風絵でよみがえる室町の華」(根津美術館)

例年観に行く庭園の紅葉とともに楽しみにしていた今展。「室町の華」ということで、室町の屏風絵、襖絵が見られるものと楽しみにしていました。
実際には室町将軍家の襖絵は現存していないので、夏珪、馬遠、梁楷の影響を受けた絵画、牧谿や雪舟、周文、元信の襖絵や掛軸から、将軍家の襖絵を類推しようという試みです。
作品そのもののことは別にして、イメージするのがなかなか難しいです。

周文、芸愛や式部輝忠、雲谷等益の作品など、どれも初めて見るものばかりだったのですが、芸阿弥「観瀑図」以外あまり印象に残らなかったのは不思議。常信の「四季花鳥図」に至っては、あとで図版で見て、もっとよく作品を見ればよかったと後悔したぐらいで。
室町の襖絵のイメージに意識が行き過ぎて作品にうまくピントを合わせることができずに残念でした。美術館が考えるテーマはそれとして、あまり縛られ過ぎずに自分の視点で作品を鑑賞したいものだと思いました。

「大倉コレクション 信仰の美」

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〇2022年11月23日
「大倉コレクション 信仰の美」(大倉集古館)

大倉集古館というと普賢菩薩騎象像が有名ですが、このお像を中心に仏像彫刻、絵画等が展示されています。
その普賢菩薩像は2階に。鞍に七宝つなぎ文が描かれていたり細部まで近くで見ることが出来ます。わが国を代表する仏像だけあり、静謐な存在感があります。
田中親美が制作した平家納経の模本を見ました。見返し絵もじっくり見ることが出来てよかったです。

「惹かれあう美と創造」

〇2022年11月
「惹かれあう美と創造」(出光美術館)

出光美術館に「惹かれあう美と創造 陶磁の東西交流」を見に行きました。
とても空いていて、ゆっくり快適な鑑賞でした。
ヨーロッパからの発注で有田の職人が作ったケンタウロス文皿が面白かったです。以前サントリー美術館で見たのとほぼ同じ図様で、同種のものが多く輸出されていたことをうかがわせます。
それにしても、ケンタウロスが何かを知らない有田の職人は、この奇態な注文に面食らっただろうことが想像できます。まさかケンタウロスが実在するとは思わなかったでしょうが。

絵はがきが売ってなくてとても残念でした。
あとは、日本の柿右衛門や伊万里が、中国や西洋で模倣されてるのの比較。これもお決まりですが(笑)
柿右衛門の鶉が違う鳥になっているのは、理解しやすいローカライズ。中国では葉っぱの上にコオロギが足されています。日本の陶磁器では余白に美を見ますが、ヨーロッパではそうではないようで、いろいろ描き足されたり。
ローカライズにも民族性が出ていて、とても面白かったです。

「美をつくし 大阪市立美術館コレクション」

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〇2022年11月
「美をつくし 大阪市立美術館コレクション」(サントリー美術館)

展示品の来歴を見ると、大阪の実業家たちが支えてきた美術館ということがわかります。このあたり、やはり商都・大阪ですね。

1回目は9月、2回目は後期展示を見に11月に行きました。
後期展示の葛飾北斎の肉筆画「潮干狩図」が興味深かったです。
西洋画の遠近法や明暗法を駆使したリアルな背景に浮世絵の人物がいる。どことなくしっくりこない感じもするけれど、おそらくいろいろ試していたんでしょうね。
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絵画では狩野宗秀「四季花鳥図屏風」が面白いです。「永徳の影武者」「筆法は永徳に似て荒い」ともいわれる永徳の弟。躍動的な大画様式といい永徳を思わせます。もっとも永徳は繊細華麗な絵も描いているので、大画様式は数ある注文をこなすためだった、とも言われているようですが。
「新蔵人物語絵巻」は、男装の女性が宮中で帝の寵愛を受ける、という「とりかへばや物語」的で小さめの白描の絵巻物。解説で「同人誌的」と書かれていますが、クオリティは高そうです。
光琳関係では、有名な小西家文書が見られたのが良かったです。
近代絵画では児玉希望「枯野」が印象的。北野恒富「星」、上村松園「晩秋」が写真撮影可能でした。
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「特別展 京に生きる文化 茶の湯」

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〇2022年10月
「特別展 京に生きる文化 茶の湯」

京都国立博物館で茶の湯展を見ました。
以前の東京の茶の湯展では、とにかく名物道具が次々と出てきてこれぞ集大成と思ったものでしたが、今回は茶と禅の関わりや、茶の湯の変遷を追った絵画や書跡などの資料が多く、茶の湯の歴史的発展の部分にも焦点があたった展覧会だったと思います。

とにかく展示物が多くて、しまいには足が疲れるほどでした。
道具類は依然見たものが多かった印象ですが、龍光院の陽変天目茶碗は初めて見ました。
曜変天目は日本に3碗のみが伝えられていますが、他の2碗と比べて光彩が少なく、稲葉天目ほどの華やかさは感じませんが、落ち着きがありました。

「生誕140年ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」

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〇2022年8月11日
「生誕140年ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」(アーティゾン美術館)

青木繁と坂本繁二郎は同じ年に久留米に生れ、同じ学校、同じ画塾で学んでいます。
しかし二人の絵を見ていくと、いかにも対照的な二人という感じがします。
青木繁は常に何かを渇望し、追いかけているよう。対して坂本繁二郎は身の周りの穏やかな日常をしっかりととらえているようです。
青木繁の「わだつみのいろこの宮」「海の幸」、坂本繁二郎の馬の絵。どちらも他の誰にも描けない絵ですが、それぞれに惹かれます。

互いに意識せずにはいられなかったであろう二人の道程も対照的です。青木繁の没後に、坂本繁二郎が青木顕彰のために画集を出したり遺作展をするために奔走したことを知りました。

「歌枕 あなたの知らない心の風景」

〇2022年7月
「歌枕 あなたの知らない心の風景」(サントリー美術館)


昔の人は桜の絵に吉野を、紅葉の絵に小倉山や龍田川を思い浮かべました。
歌枕とは、実際の風景ではなく和歌の中だけに存在する想像上の名所、和歌によって作られたイメージによる「心の風景」というべきものだったとあります。考えたことはなかったけれど、言われてみるとなるほどという感じです。
こういう抽象的な「言葉」を対象とした展示。

平安期の、屏風絵に対して和歌を詠む「屏風歌」の流行、鎌倉以降の西行追慕の歌枕の旅など。
「西行物語絵巻」等の展示がありました。
蒔絵の手箱や硯箱が充実しています。「小倉山蒔絵硯箱」の写真撮影が可能です。
解説文で「小倉山と伝承されているが、小倉山の景物である鹿がおらず、木が風に靡く様子から(この作品の主題は)嵐山という説もある」とあります。
(ちなみに蓋裏には州浜と生垣、松、見込には流水と筏、楓が蒔絵されており、それぞれ住吉神社、竜田川とされているようです)

大堰川と向こう側の山は嵐山の実景を思わせるし、とすれば手前の山が小倉山で、小倉山側から対岸を見た景色を描いた、という説明もつくかもしれません。
小倉山というと定家の小倉山荘が思い出されますが、そのイメージに和歌の神様である住吉神社らしき社頭が描かれていることを考えると、和歌自体がモチーフなのでしょうか。

吹きはらふ紅葉の上の霧はれて峰たしかなるあらし山かな
あいおいのひさしき色も常盤にて 君が世まもる住吉の松
定家
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