千両過眼

東京在住の会社員です。読書、舞台、展覧会の感想などを書いています。

和田竜

「村上海賊の娘 上・下」


◆2014年1月16日
「村上海賊の娘 上・下」(新潮社)
和田 竜

上下巻で約1000ページ。上巻まで読んで、頁数に見合うほどの内容ではなかったかな、と少々後悔してました。
ところが下巻に入るや、何この面白さ!!頁を捲る手が止められなくなりました。途中で投げ出さなくて良かったです。

舞台は戦国時代。瀬戸内を席捲する海賊・能島村上家の姫・景(きょう)を主人公に、織田方と、石山本願寺に兵糧を入れようとする毛利家率いる小早川・村上・児島らの水軍が戦った、木津川合戦を描いています。
(以下、ネタバレ少々あります。未読の方ご注意願います)

景は悍婦で醜女、自ら海賊行為を行うこともしばしばで、瀬戸内では嫁の貰い手もない自由奔放な野生児、という設定。
いつかは自分もと戦に憧れる日々だった景が、「弥陀の御恩に報いるために戦う」と言って大坂指して集まっていく本願寺門徒に出会って価値観が変わります。
上巻では、初めて本物の戦を目にした景が自らの甘さに気付き、挫折を経験するという内容。この時代の新しい女性像としては斬新ではあるんですけれど、それほどお話にも魅力は感じなかったんですよね。
ところが。下巻になると一変。上巻は序章に過ぎなかったのでした。
幾度倒れても不屈の魂で立ち上がる景と、それまで戦を回避しようとしていた村上海賊や毛利の水軍が、景の危機を知って続々舳先を返し、駆け付ける姿にぐっときました。
何しろ、海賊たちが皆「姫様を助けるんじゃあ」とか言って、めちゃめちゃに相手に斬り込んでいったりして、景の愛されっぷりにじんとします。
下巻のほとんどを占めるといっていい海戦の描写は、映像で見せられてるような緊迫感。頭脳戦あり必殺技あり、敵味方のキャラクターもしっかり立っていて、とくに超絶な力を持つ難敵・眞鍋七五三兵衛と村上海賊たちとの戦いは熱いです!!ほとんど少年漫画的世界ではありますが、これほど戦闘シーンが面白い小説は久しぶりかも。
昔の軍記物もかくやと思われる筆の冴えに、すっかり魅了されました。

写真は、「ワンピース」のサウザンドサニー号。海賊つながりということで。
(2014年-5,6冊目)☆☆☆☆

映画「のぼうの城」


◆2012年11月18日
映画「のぼうの城」
原作:和田竜「のぼうの城」(小学館) 監督:犬童一心 樋口真嗣
出演:野村萬斎 榮倉奈々 成宮寛貴 山口智充 上地雄輔 山田孝之 平岳大 市村正親 佐藤浩市

映画「のぼうの城」を観に行きました。
小説を読んだのはもうずいぶん前なので、細かいところはおぼろげなのですが、原作のイメージにかなり近いと感じました。
秀吉の北条攻めに伴い、武蔵国の忍城攻略に任じられた石田三成率いる2万の軍勢と、たった500人でそれに立ち向かう忍衆の合戦を描いています。
冒頭、この映画は史実を元にしています、みたいなテロップが入ります。テレビCMなどでは水攻めのシーンがほとんどなかったので、配慮なのでしょう。
映画を観る迄は、長親役の野村萬斎は「でくのぼう」に見えないんじゃないか、と心配したのですが、違和感なかったです。百姓に混じって麦踏みや田植え唄を歌っている様子も自然。小説を読んだときには、長親が「うつけ」っぽく見られてるように思ってたのですが、映画では「役に立たないが、愛すべきのぼう様」という感じで、なるほど、こっちの方がいいですね。
圧倒的戦力で周囲を囲み、降伏を迫る三成軍の使者・長束正家の傲慢な態度に、降伏を決めていたにも関わらず突然「戦いまする!」と宣言する城代の長親。
これ以降、肚の読めない感じは野村萬斎のキャラにぴったりです。
長親を隣でハラハラしながら見ている、真面目で苦労性の丹波役が佐藤浩市。軍略に長けた靱負(成宮)、豪傑の和泉(山口)とともに、いい組み合わせです。
長親たちの抵抗にあって、なかなか戦果を挙げられない上地雄輔演じる石田三成が憑かれたように水攻めにのめり込んでいくのが好演です。三成の理想主義者っぽいところとか、素晴らしい頭脳を持つ総大将で、他の荒くれ武者とちょっと違うらしいところがよく出ています。とくにラストの長親との会見の場面など、三成ファン必見では。
水攻めのシーンは大迫力でしたが、それぞれの陣営の人間ドラマが面白く、よくできた映画と思いました。

「忍びの国」


◆2012年8月24日
「忍びの国」(新潮文庫)
和田 竜
 
もうすぐ劇場公開される「のぼうの城」に続く、和田 竜さんの2作目の小説です。
舞台は戦国時代。織田信長の次男で、北畠氏に成り代わって伊勢の国主となった織田信雄と伊賀勢の戦い、いわゆる「天正伊賀の乱」が題材になっています。
「術をかける相手の心を読み解き、その心につけ込むことで勝ちを得る」「目的のためなら他人を出し抜き、人を殺すことなど屁とも思わない」という忍者の心得に凄みがあります。
六角氏に仕えていた甲賀流に比べ、独立性が強く、親や子、仲間にも容赦しないという伊賀流の非情さは、本作にもよく表現されています。「仲間を大事にしない奴は人間のクズだ」というカカシ先生の教えとは大違いですね(笑)
 
物語は、伊賀忍者の中でも「その腕絶人の域」と言われる百地家の忍び・無門(むもん)と、北畠具教の死後、織田家に仕えた日置大膳(へきだいぜん)の対決を軸に描いていきます。日置は実在の人物らしいです。
冒頭の、信雄と北畠家譜代の臣らによる具教謀殺から、つかみはバッチリ。戦を引き起こそうとする伊賀方の策謀、忍者VS武士の合戦と、むだなくよく練れていて、展開に厚みがあります。
武士の価値観、忍びの掟の厳格さが窮屈に見える一方で、無門のキャラの自由奔放さと人間味が魅力的。
平凡に見えるタイトルと文庫表紙のイラストが私的にイマイチだったので、これまで手に取る機会がありませんでしたが、想像してたよりずっと面白かったです。
 
写真は京都・本能寺。信長の死後、秀吉の時代にいまの場所に移転したんだそうです。寺町通のアーケードに面して、山門が今も静かに佇んでいます。(2012年-77冊目)☆
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