◆2016年12月18日
朝井リョウ「何様」(新潮社)
いまだ「何者にもなりえない」のに、「何者かの仮面を被らなくてはならない」就活生の現実を描いた前作「何者」。
それに対し本作は、企業の採用担当に配置され、選ばれる側から選ぶ側にところを変えた若者の葛藤を描いています。
学生の時は装うことでいっぱいいっぱいだったのに、面接にやって来る就活生には内的動機を求めてしまう。それは果たして「誠実」といえるのだろうか。
世の中がそういう「お約束」で成り立っているとはいえ、社会人生活が長くなるほど摩耗していくこういう感覚へのこだわりは、著者ならではです。
実のところ、主人公の葛藤は全然別の方面から来ていて、精神的にもかなりマズイ状態に陥ってた、というのが読者にもあとから解る仕掛け。
結局、人生で初めて直面したともいえる生き方に関する問いの答えを、先輩社員のひとことから得ることができた彼は、サラリーマンとして幸せな部類に入るでしょう。
それにしても。
うまくまとめられているとはいえ、この小説の世界の小ささは残念です。
「何様」以外の短編も似たり寄ったりで、そこからの広がりを感じさせないのですよね。
この人はこういうふうに振る舞ってるけど、本当はこういう人。
この人は本当はこの人のことを、こう思っている。
こういう、内へ、内へと螺旋階段を下っていくような人間同士の閉塞的関係は、以前から著者が取り組んできたテーマとはいえ、読んでて楽しくなく、息苦しささえ覚えます。
せっかくこんなに文章が上手い人なのだから、外の世界に切り込んでいくような作品を書いてもらいたいです。
(2016年53冊目)